2019.02.26

ソフトバンク
「アジャイル開発を実践するための組織の作り方」

アジャイル開発の取り組み
【AgileHR day #Sprint05_後編 】

■Speaker情報

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット アジャイルデベロップメントセンター
竜田 茂(たつた・しげる)様

Pivotalジャパン株式会社
Pivotal Labsソフトウェアエンジニア
梅原 一造(うめはら・いちぞう) 様

■モデレーター
株式会社ギブリー
取締役・CSM(Customer Success Manager)
新田 章太(にった・しょうた)

■イベントレポート概要

2018年10月18日、5回目となる株式会社ギブリー主催による「AgileHR day」が開催されました。

今回は、アジャイル開発を実践するための組織の作り方をメインテーマとし、Pivotalジャパンの梅原氏、ソフトバンクの竜田氏をお招きして各社のアジャイル開発の定義やチームビルディング、採用や育成に至るまで幅広い切り口でお話しいただきました。

「#Sprint05 - 前編」はコチラ <<

■トークセッション後編:ソフトバンクにおけるアジャイル開発

第5回AgileHR dayの後半は、ソフトバンク株式会社の竜田氏より、ソフトバンクにおけるアジャイル開発の取り組みについて伺いました。

新田:それでは、ここからは竜田さんにバトンを渡してソフトバンクのアジャイル開発の施策や取り組みについてお伺いしたいと思います。

竜田氏:ソフトバンクの竜田と申します。アジャイルデベロップメントセンターというのがソフトバンクに出来まして、今ここでアジャイル開発に取り組んでいます。前職はオラクルに在籍していましたが、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念に共感し、2013年にソフトバンクに入社いたしました。
最初はアプリケーションサーバーとか製品の技術支援を担当していましたが、その後はIBMと提携してIBM Watsonのローカライズなどを担当していました。去年ぐらいから社員中心でワクワク開発を楽しめる組織を実現するために「アジャイル開発」の推進を担当しています。



新田:まず、前半でPivotalの梅原さんに伺った質問と同じになりますが、御社でのアジャイルの定義として一番大切にしているものはどんなことでしょうか?

竜田氏:アジャイルって最近バズワード的になってきていて、スクラムをやっていたらアジャイルをやっているという企業さんも多かったりしますが、僕たちは開発プロセスとしての従来のウォーターフォールからアジャイルではなく、企業文化を変えるためのアジャイルの導入に取り組んでいます。なので、僕たちのアジャイルの定義は、プロフェッショナルがチームを組んでチームとしてベストを尽くすことがアジャイルの定義です。
プロセス的にはスクラムをベースにして、エンジニアリング的な要素としては(※1)XP(エクストリームプログラミング)のプラクティスを盛り込んで、ハイブリッドでおこなっているというのが僕たちのアジャイルの手法です。
(※1)XP(エクストリームプログラミング):事前計画よりも柔軟性の高さを重視するため、難易度の高い開発やビジネス上の要求が刻々と変わるような状況に向いた開発手法。

新田:プロセスのお話について深掘りしてみたいのですが、XPを重視している意図は何でしょうか?

竜田氏:僕が所属するIT本部はソフトバンクの通信事業を支える部署で、システム数が700程あって、社員数も700人程度です。1社員1システムみたいな形でとても手が回らないので、多くのパートナーの方々に協力をいただいています。しかしその結果、社員が開発よりも管理の仕事が多くなってきていて、社員の開発スキルが落ちてきてしまい、カルチャーが停滞してきているという課題があり、働き方改革やタスクフォースでディスカッションした結果として、カルチャーを変えていくことを目的としてアジャイル開発に取り組んでいます。そのため、新人を育成するためにXPなどを中心に取り組んでいる感じです。

新田:なるほど、様々な立場や状況の方がいる中で、どうやってエンジニアリング力を高めるかというところで取り組まれているのですね。

竜田氏:そうですね、ソフトバンクのIT部門で働いている人って本当は開発がやりたくて来ている人が多いと思うのですが、現状は管理の仕事がメインになってしまっているので、これをエンジニアファーストに戻す目的で、まずエンジニア力を取り戻すためにXPなどに力点を置いています。

■アジャイル開発経験のない新人をどう育成するのか?

カルチャーの変革と新人の育成を重視するソフトバンクのアジャイル開発の取り組みにおいて、どのようにチームビルディングをおこない、新人を育成しているのかを詳しく伺いました。

新田:新人育成というお話があったのでHR側のお話にもなるのですが、新人は実際にどういった形でプロジェクトに関わられているのですか?

竜田氏:最初にアジャイルの取り組みをやろうと思った時に、社内からシニアエンジニアを集めてアジャイルをやろうと思ったのですけど、社内にいるシニアエンジニアはそれぞれの部署の中心人物になっているため、なかなか引き抜いてこられませんでした。上からはこの取り組みの理解や承認をもらっていたので、組織を作ろうと動いてみたものの、社内から中堅メンバーを引き抜いてこられなくて、結果的に新人主体で取り組みを始めたというところがあります。



新田:なるほど、一般的には大きな会社さんでは新人研修があって、ある程度基本的なプログラミングを学んでから配属という流れがあると思いますが、御社のチームにはどんな流れで新人の方が配属されてこられるのでしょうか?

竜田氏:うちの会社もIT本部として集合研修はやっています。配属されるのが7月くらいで、我々の部署に配属されてからは基本シニアエンジニアと新人のマンツーマンでペアプログラミングなどを回してOJTで技術力を高めていくっていう感じでやっています。

■ペアプログラミングが生む教育効果と生産性向上

ソフトバンクでは、シニアエンジニアと新人がペアでプログラミングを実施することで、生産性、品質、技術力の向上に繋がっているといいます。ペアプログラミングの実施方法からその効果について伺いました。

新田:新人さんもペアプロを通じて実践でプログラムを書いていくことが中心になるのでしょうか?具体的にどんな役割でペアプロを実施されているのですか?

竜田氏:そうですね、ペアプロにはドライバーとナビゲータという役割があり、最初は先輩がナビゲータ、新人がドライバーを務めることが多いのですが、経験が付いてきたらナビゲータを新人にやらせることもありますし、コーディングだけじゃなくて設計などあらゆるものでペアプロをやっています。

新田:実践後、会社の中で生産性やパフォーマンスが変わったりしましたか?

竜田氏:ペアプロって色んな側面があると思うのですが、ペアプロをやることによって常にシニアエンジニアがコードをチェックするので品質は高まります。しかし実際は2人でやっているので生産性が半分になるのではないかという意見もありますが、僕たちのチームはペアプロであればコードレビューはなしでOKということにしているので、本当に新人が成長してくれば生産性は上がるはずです。今は新人のOJTという側面で実施しているので、シニアエンジニアも新人が育てば将来的に自分が楽になることも理解してやってくれています。

新田:投資も含めてということですね。OJTというと教育要素も含まれると思いますが、ペアプログラミングを新人の方にやってもらうのは教育効果としてはいかがでしょうか?通常の研修と比較した時に違いはありますか?



竜田氏:集合研修や、書物やライブラリを活用した勉強もしてもらっていますが、ペアプロだとナレッジからの形式知だけでなく、ちょっとしたテクニックや暗黙知みたいなものも使えるのが重要だと思っています。

新田:一般的な研修や読み物で得られる形式的な知識だけでなく、OJTでコミュニケーションを増やしてペアプロをすることで、形式的では身につかないスキルをキャッチアップしていくということですね。

竜田氏:そうですね、ちょっとしたツールの使い方なども含めて学べますし。

新田:新人の方が自立していく上で、良い手段でしょうか?

竜田氏:そう信じてやっています。

■質疑応答:アジャイル開発の推進に必要な人材とは?

新田:ここで面白い質問があったので取り上げたいと思います。『100人以上エンジニアがいる会社でアジャイル開発を推進する中で、どういった人材要件を持つエンジニアをアサインして文化作りをするのがよいでしょうか?』

竜田氏:それはとても難しい問題で僕たちも悩んでいますが、アジャイルっていうのはカルチャーがとても大切で、シリコンバレーやITジャイアントっていうのは独自のカルチャーを持っています。なので僕たちも、僕たちのチームのカルチャーを去年の新人さんと一緒に作ってきたので、そのカルチャーに賛同する人を入れるっていうのがいいのかなと思っています。
これまでは人もいなかったので、プログラミングができる人っていう観点で人材異動もしていましたが、カルチャーが合わない人っていうのはどうしても厳しいので、スキルがあってもカルチャー重視にしています。さっきPivotalさんの話を聞いて、ペアプロをやって見極めるのもいいのかなと思っています。

新田:ちなみに今日は人事の方も結構いらっしゃると思いますが、採用や自社の対外的なプロモーションで人事側に期待することや心がけて欲しいことはありますか?

竜田氏:これから人事に働きかけていかないといけないと思っているのは、アジャイルをやるのであれば今までの日本的な文化を捨て去る必要があるのかなと思っています。カルチャー採用もしなくちゃいけないし、年齢やキャリアグレードによって仕事を与えるのではなく、若くてもスキルがある人は抜擢していくという仕組みを作っていかないと逃げられちゃうと思うので、そういうことをやらないといけないと思っています。

■会場からの質疑応答

来場者からの質問は、アジャイルエンジニアのキャリアプランとスキルの見極めについての質問が多く集まり、具体的に伺ってみました。

新田:御社がエンジニアのキャリア形成において実践されていることを簡単にご説明いただいてもよろしいですか?

竜田氏:弊社全体の基準とは異なるのですが、うちの部署はアジャイル開発に特化した独自のキャリアパスを設定しています。なぜかというと、どうやって昇級していくのかが明確であることは大切ですからね。例えば、〇〇ができるようになったらアジャイルエンジニアやシニアエンジニアに昇級できるなど。
また、シニアエンジニアになった方が、次のキャリアとしてスクラムマスターを目指したいのであれば、研修に無償で参加できるインセンティブを与えたり、次のキャリアに繋がる重要な仕事にアサインしたりして成長を応援しています。



新田:求める要件やスキルを見極める取り組みについても教えていただけますか?

竜田氏:アジャイルエンジニアについての見極め方を説明させていただくと、まずアジャイル開発に対する理解度をチェックする指標として、僕たちも問題の策定に参加している「アジャイル検定」という資格があって、それを取ってもらいます。あとは当社はエンタープライズでJavaがメインなので、「Java Gold」を取ってもらいます。
また、資格以外に、もちろん実務経験も必要になります。
僕たちは四半期ごとにプロジェクトを回しているので3ヶ月のプロジェクトでの実務経験や、実際に人に見せられるコードが書けているかという点を踏まえて、「track」を活用してソースコードのスキルを測っています。

新田:資格や検定を取得するには、お金や時間が掛かりますが、御社では何かフォローアップをされたりしていますか?

竜田氏:全社的にこれらの資格の取得が推奨されているので、受験料は会社から出ますし、trackに関しては部署で契約しているので自由に使えますよ。

新田:御社ではtrackが自由に使えるだけではなく、かなり実践的な問題を選択されていますよね。trackがお役に立てているようで嬉しい限りです。今後も引き続きスキルチェックの支援をさせていただきます。

カルチャーの変革やエンジニア育成においてアジャイル開発を取り入れるソフトバンク。ペアプロや資格取得へのフォローなど、様々な取り組みの先には、よりエンジニアが活躍できる組織にしたいという強い想いが伝わりました。

ありがとうございました。

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  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

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