2020.08.21

採用チームの
大幅な残業時間の削減や、
施策の質を向上させる
スクラムを活用した
業務遂行プロセスとは。

〜メンバーの主体性を高める
チームビルディングとふりかえりの文化〜

■Speaker 情報

サイボウズ株式会社
チームワーク支援チーム HR Scrum Master
庭屋 一浩 氏

2013年に新卒でサイボウズに入社。
技術営業やSE業務に携わるシステムコンサルティング本部を経て、
2017年から2019年まで新卒採用チームのリーダーを担う。
現在はスクラムマスターとして社内の様々なチームの業務改善を推進している。

サイボウズ Office、kintone、Garoonなど、数々のBtoB向けクラウドサービスを開発しているサイボウズ株式会社。先進的なワークスタイルが注目を集め、何かと取り上げられることの多い同社は、採用現場にもアジャイル開発現場で使われる新たな手法を取り入れた先進的なチームビルディングが行われています。今回は、スクラムマスターとして新卒採用チームの仕事の進め方にスクラムを取り入れた庭屋さんに、その経緯や実際の様子を伺いました。

■庭屋さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

庭屋氏:2013年に新卒で入社して、最初はコンサルティング業務をしながらSEのようなポジションを経験し3年目に人事部の新卒採用チームに異動しました。その後新卒採用チームのリーダーになったのがきっかけで、チームの業務改善を目的に「スクラム開発*」の手法を取り入れました。チームで成果が出てからは、スクラムを広めるのが楽しくなってしまって。最近では、社内の各チームに対して業務遂行プロセスにスクラムの導入支援をすることがメイン業務となり自由に活動をしています。

※スクラム開発とは
アジャイルという思想のもとに生まれたソフトウェア開発手法の一つ。変化に対応しながらより顧客に価値のあるものを提供するための手法として注目されている。

自身の経験からスクラムの手法や考え方はすごくいいものだなと実感しているのですが、世の中を見渡すと導入している組織は少なく、どうやって広めていくべきか試行錯誤している段階ですね。

■一番最初にスクラムを導入された、新卒採用チームについて詳しく教えていただけますでしょうか。

庭屋氏:まず人事の組織構成からお話しします。 人事本部が採用・育成チーム、総務・労務チームの2つに分かれていて、私が去年までリーダーとして担当していた新卒採用チームは採用・育成チームの配下にありました。新卒採用チームは、候補者に連絡するオペレーション担当が2名と、企画立案、及び実行担当が4名在籍している構成でした。

新卒採用チームは主に新卒1年目〜3年目という若いメンバーで構成されているので、業務のインプットなど色々と時間が掛かりますが、チーム内で互いに補いながら進めています。こうしたチーム事情でも業務を円滑に進められるようにディレクションして行くのが私の役割です。

■新卒採用チームがスムーズに仕事を進めるため「スクラム」を取り入れようと思ったきっかけについてお話いただけますか。

庭屋氏:前任のリーダーは、新卒で入社してから5〜6年間ほど新卒採用に携わっていたので、ノウハウも持っているし、牽引力がとても強い人でした。私がリーダーを引き継いだ際に経験値的に前任者と同じやり方や導き方はできないだろうと感じていましたので、業務の進め方を変えてチーム全体で支え合いつつ生産性を上げることが求められるなと思ったのがきっかけですね。

社内のエンジニア達がチーム開発にスクラムを取り入れて、主体的に業務に取り組んでいたのもあり、このやり方を採用チームにも応用できるのではないかと考え、エンジニアに教えを請いに行きました。

社内のスクラムマスターに弟子入りして学びつつ、アジャイル開発やスクラムに関する本もかなり読みましたね。吸収した知識は、すぐに新卒採用チームで試したりして、実践しながら学んでいった感じです。

■庭屋さんが新卒採用チームに入られたことで感じた課題は何だったのでしょうか。

庭屋氏:目に見えてわかりやすいところで言えば、メンバーの残業がすごく多かったことです。人事とか人材に関わる職種に対して、自分の思うようにスケジュールを組めず、残業するイメージを持たれる方は多いと思いますが、実際私たちも残業でカバーしていることが多いチームでした。
1週間のスケジュールを確認したところ、どんどん発生する作業を残業で補っていて、全員余裕がなくて身動きが取れない状態でしたね。

これは、タスクを何となく分担して行っており、メンバーが持っている経験やカンで属人的に作業を進めているのが大きな要因で、想定漏れや抜け漏れのタスクがちょこちょこ発生し、対処に追われてしまう状況でした。

採用業務は1年間を見据えて取り組む内容や、即時の対応が求められる業務など、常に沢山のタスクがあるので、しっかりと計画して整理しながら進める必要があるんですよね。

■実際にスクラムを取り入れていくにあたり、具体的にどのようなフローで取り入れ、オンボードさせていったのでしょうか。

庭屋氏:「スクラムをやってみよう」と声をかけること自体は難しくなく、とてもスムーズでした。若いメンバーがチームには多かったのと、そもそも、サイボウズにはチームで取り組むという文化があったので、取り入れること自体に対しては、チームから反発を受けることもなく、そこまで苦労はありませんでした。一方、実際にスクラムを運用していくのはすごく難しかったですね。実は最初、研修チームと合同でスクラムを試してみたのですが、領域がまたがると上手くいかなかったので、スコープを小さくするためにも、まずは新卒採用チームという自分の管掌領域にしぼってスクラム導入をはじめました。

最初にやったのは、アジャイル開発を始めるときやスクラムを導入するときに用意されることが多い「カンバン」と呼ばれるタスク可視化用ボードをつくることでした。そこにどのプロジェクトやどの施策なのかということは関係なく、全員が持っているすべてのタスクを大きめの付箋に書き出してカンバンに貼り出します。準備としてはこれでOKではあるのですが、実際の運用にのせるにはこのカンバンが「チームで持っているタスク表だ」という認識を全員が持つ必要があるんです。この認識がそろって初めてスタートラインに立てます。

貼り出されたタスクをチーム全員で確認したところ、「タスクが1人に集中するのはなぜだろう?」「この人のタスクをうまく分けるにはどうしたらいいんだろう?」というように、現状の課題が明確になりました。そして、企画やタスクを洗い出すところからみんなでやってみることにしたんです。具体的に言うと、例えばインターンの企画を今までは1人で担当していたけれど、キャパシティ的に厳しいということがわかったんですね。そこで、今後は少なくとも2人以上で対応しましょう!というようなルールを設けて運用をはじめました。

■スクラムの運用をはじめてから気をつけたポイントはありますか?

庭屋氏:全員が持っているタスクを洗い出し、チームのタスクとしてスクラムを進めるには、カンバンにあるタスクを手の空いている人が上から順に消化するのが理想形です。そのためには、メンバー個々の主体性が肝心なのですが、主体性って個人差があるんですよね。

この個人差をできる限りなくすために必要なのが、メンバー全員が共通の目的意識をもつことです。とくに新しいメンバーが加わるタイミングなどでは、アジャイル開発でプロジェクトを進める際に使われる「インセプションデッキ*」と呼ばれる手法で、半日くらいかけてチームビルディングを実施しました。メンバーの得意不得意やチャレンジしたいことの発表や、チームとしての判断軸の認識合わせを実行しました。「我々は何のためにここにいるのか?」「チームとして何をどのように実行するのか」ということをメンバー全員で話し合い目的意識を揃えることが目的ですね。

※「インセプションデッキ」:
プロジェクトの全体像(目的、背景、優先順位、方向性等)を端的に伝えるためのドキュメント。

また、スクラムを進めるにあたって大事にしているのがふりかえりです。
私はふりかえりが本当に大切だと考えていて、簡単にいうとふりかえり信者なんですよ(笑)。

具体的には、1週間で2時間半ほど使ってメンバー全員でふりかえりと計画づくりを開催していて、先ほどお話ししたカンバンを使ってタスクを見える化し、進捗とふりかえりをしたうえで次週の計画を立て決定するということを確実に行っていました。
そもそもスクラムでサービスを開発する際に「ユーザーや顧客に価値を届ける」という命題があるのですが、我々採用チームも「自分たちのチームはどんな価値を発揮できたか」を振り返り、価値をどうやって届けるかを意識していますね。

■運用後のチームの反応や、実際の成果についてはいかがでしたでしょうか?

庭屋氏:チームの残業時間が圧倒的に短くなったのが大きな成果です。一方、残業時間は短くなっていても、実施している施策量は増えているのも特徴的ですね。例えば、毎年新人の方には、内定者懇親会の企画や運営を担当してもらっているのですが、例年は22時以降まで残って準備をしていたものが今年は18時に終わっていました。スクラムは2019年の6月頃から始めたのですが、10月には目に見える成果を出せるようになっていましたね。

また、人事にとって毎年3月~6月は、面接と説明会をやっていたらあっという間に6月が来てしまう感覚を持つくらい手一杯な時期なのですが、今年は3月中に新たな施策を立ち上げて実行するまでできていました。日々のタスクを効率的なサイクルで回せているので、新たな施策を打つ手数も増やすことができました。

メンバーからは、「仕事を着実に進めている・改善しているという実感が持ててとても嬉しい」という声を聞いています。細かくふりかえりを実施していくことで、一週間で一歩、着実に前に進むということを常に意識していることもあり「自分たちのチームは改善を重ねながら、すごく前に向かっているよね!」という共通の感覚も持ってもらえて、各施策の推進もどんどんやり易くなっていきました。

あとは、『新卒採用チーム残業やめましたっ!』というような社内プロモーションを打ち出したところ、中途採用チームが「同じ採用チームなのになんで?新卒採用チーム何やったの?」とスクラムの取り組みに興味を持ってくれました。今では新卒採用チーム以外でもスクラムを導入しようという動きが広がっています。

今回の新卒採用チームの事例のように、小さくやって成功することで周りから「あれを真似してみようぜ」と波及したことはよかったなと思っています。スクラムはまだまだ新しい手段で、開発の人たちだけの手段だというイメージが強いうえに、そもそも知らない人も多いということもあって、推進に苦労する部分もありますが、興味を持っていただいた人たちには届き始めているんですよね。

■最後に、人事業務に携わられている方や業務改善を目指している方々に「スクラム」という手法を導入するためのヒントをいただけますか?

庭屋氏:アジャイル開発の考え方とそれに基づくスクラムという手法を成功させるには、形にしたものに対して素早くフィードバックを貰うことが大切です。世間一般的に、プロジェクトのアウトプットに対するフィードバックをもらうことは多いと思うのですが、プロセスにもフィードバックをもらう必要があると感じています。プロセスもフィードバックをもらって改善を繰り返し、早く流れるようにすると、その分プロジェクトの試行回数が増えます。多く試行した回数に応じてノウハウも蓄積されていきます。

アウトプットに対してだけでなく、プロセスを振り返って試行錯誤するという視点があることは、新しい気づきになるのではないでしょうか。

今回は新卒採用チームの例を取り上げさせていただいたのですが、このチームに止まらず他の部門でも“スクラム”という考え方を取り入れはじめて、サイボウズの組織はチームの業務がうまく回り始めています。
今後は、より幅広い人たちにスクラムの概念や成功体験を広めていきたいですね。

ありがとうございました!

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  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

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