2020.12.28

インテリジェント ウェイブの
全社で取り組む若手エンジニア育成施策とは

「自ら学ぶ」マインドを育てるための環境整備とメンター制度

■Speaker 情報

株式会社インテリジェント ウェイブ
取締役 執行役員
経営管理本部担当 兼 経営企画室担当
後藤 泰佐 氏

株式会社インテリジェント ウェイブ
経営管理本部 副本部長
横山 忠明 氏

国内トップシェアのクレジットカード決済システムを開発、運用する株式会社インテリジェント ウェイブ。数々のオンライン取引処理が求められる場面で活用するシステムを24時間365日リアルタイムで支える同社には、業界に精通したエンジニアが数多く在籍しています。開発未経験の社員も多い中、専門性の高いエンジニアが育つ理由は、ビジョンを達成するための戦略から落とし込まれた社員育成にありました。今回は、社員育成を管掌する取締役の後藤さんと、担当の横山さんに、同社の方針や育成プログラム「IWIカレッジ」の詳細を伺いました。

■今までのIT基盤を軸として次世代のビジネスを作っていきたい

お二人の立場やお仕事について教えてください。

後藤氏:私はインテリジェント ウェイブの取締役という立場で、経営管理本部、経営企画室を担当しています。元々私が開発部門の出身ということもあり、開発部門と経営管理部門の連携を強化するというミッションを持っています。弊社では、経営戦略の中に人材育成という軸があり、その中の一つとして若手、とくに新卒入社3年目くらいまでを対象とする育成強化の施策があります。責任者は私なのですが、育成自体は本部長が主幹となり、各本部長と一緒に若手育成に力を入れているという状況です。

横山氏:私は後藤が管轄する経営管理本部の副本部長をしています。今まではずっと開発部門でエンジニアとしてやってきたのですが、数年前から経営管理本部で新卒採用や人材育成の領域を手掛けています。ここ2、3年の間、経営幹部で入社1年目から3年目までの若手人材育成施策を考えましょうと動き出しを始め、育成プログラム「IWIカレッジ」を設立しました。責任者は後藤が務めているのですが、事務的な部分を私ともう1人の2名体制で支えるという役割分担になっています。

 

インテリジェント ウェイブは30年以上続く老舗システム開発会社ですが、どのようなビジョンを描いていらっしゃるのでしょうか。

後藤氏:弊社は「次代の情報化社会の安全性と利便性を創出する」という経営理念を掲げ、ITを通じて人びとの生活を支え、次世代のあたりまえを導くことをビジョンとしています。ビジョンを達成するためのストラテジーと呼んでいる戦略が3つあります。1つ目は業績拡大、2つ目に人材育成、3つ目が風土改革です。業績拡大はもちろんやらなければならないことなのですが、人材育成と風土改革というストラテジーには、中・長期的な視点で現状を変えていくという経営方針が盛り込まれています。社長井関(現会長)の考えもあり、短期から中・長期まで大きな戦略の下で動いているので、どんどん先行投資をして進めていくという考えです。

横山氏:人材育成というストラテジーについては、非常に大局的な見方をしています。いろいろなことに挑戦してみて、そのうちある分野で能力を発揮するような、社員の伸びる力を信じているのが特徴です。ありがたいことに、弊社は育成環境を用意できる立場にいるので、積極的に投資をしていこうという社長の考えが影響しています。

社長さんの考えが根底にあって、育成戦略の要になっているということですね。

■自ら学ぶマインドを育てる環境づくり

今回戦略の中でも、とくに若手社員の育成に踏み出すことになったきっかけを教えていただけますでしょうか。

後藤氏:弊社は、パッケージ製品を作り、それらを使ったシステムを構築・納品するというシステム開発の事業が主になるのですが、特に金融業界、カード会社の顧客が多く、売上の90%を占めています。このパッケージが国内で7、80%のシェアがある領域で、クレジットカードのオンライン決済で使われているため、24時間365日リアルタイムにお客様が店舗やインターネットで買い物ができるよう裏で支えています。
取り扱うデータの特性や接続する決済ネットワークの仕様など、システムを支えるエンジニアには専門性の高い技術や知識が必要です。これまで、そうした専門性の高い人材が、長い時間をかけ自然発生的に育ってきています。しかし、さらに業績を拡大させていくという企業戦略の中で、現在のカード決済の領域にとどまらず、新たな領域でいかに事業を拡大させるかということが課題になっています。

ほとんどがエンジニアで構成される会社ですので、新たなビジネスを作るのは当然エンジニアということになります。専門性もありながら、新たなビジネスを生み出すスキルもあるエンジニアを育てていきたいという想いが根底にあります。

「新しいビジネスを作り出すエンジニアとはどういう人なのか?」という部分を社内で議論していたのですが、よく世の中で言われるような「T型人材*」のように、幅広い知識知見を持ちつつ、特定の分野に深い専門性をもつ人材がこれからのビジネスを作っていくだろうと結論づけました。ですが、今の弊社では、縦の専門性軸は育つ環境なのですが、横軸の幅広い知識知見についてはなかなか育っていかないというところがさらなる課題として挙がりました。

※T型人材とは 独自の専門分野に対する深い知見と、その分野以外にも開けた知識や視野を兼ね備えた人材のこと。

「T型人材を育てていくにはどうするか?」となったときに、すでに外部のセミナーを受講できるような環境は用意していたのですが、誰かから教えられて学ぶというという仕組みでは、自己成長していくエンジニアは育たないのではないかというのが各本部長と話した結果でした。やはり一番大事なことは、「新しいことを自ら学んで成長していける」そのマインドではないかと。若いうちからそういったマインドを作ることが企業としてやるべきことだという結論に至り、1年目から3年目を対象にして、新しいことや未知の領域を積極的に学べる力を付けていこうと「IWIカレッジ」を立ち上げました。

■現場エンジニアがメンターとして自主学習をサポート

今までの育成方針と、今回新たにできた「IWIカレッジ」の仕組みについて教えてください。

後藤氏:今までやっていた育成施策は、各現場ごとに部長を主幹として、自分たちの業務を遂行するうえで必要な知識や業務スキルをOJTメインに教育していました。現場の上司がそれぞれ20代のメンバーの育成担当として指導していたというのがこれまでの育成方法です。この育成施策も専門性を高めるために必要であるため、引き続き取り入れています。



「IWIカレッジ」が全社的にスタートしたのは2020年2月からです。1年目から3年目の若手社員が約70名、さらに同年4月入社の17名も対象にしました。若手社員のメンターとして20名の先輩社員がつき、メンター1人あたり4名ほどを抱えている構図です。

先ほどもお話ししたとおり、「自ら学ぶ」マインドを作ることが目的ですので、若手社員の学習内容と現場での対応は完全に各メンターに任せています。私や本部長に対して、メンティの学習状況の報告は一切していません。もちろん、会社としては学習に必要な環境、例えば書籍を買うときの費用や技術セミナーの受講料、プログラミング学習ではギブリーさんの「track(トラック)」などは全て用意するという姿勢です。また、月160時間働くとして、そのうちの5%、8時間くらいは自らの学習時間に当てていいよというルールも作りました。そこにプラスしてメンターがサポートすることで、「自ら学ぶ」環境を惜しみなく提供する仕組みを作りました。

基本的にメンターとメンティの組み合わせは私と本部長で決めているのですが、すべて他部署の人になるように調整しています。自分と違う部署の若手から、学習の悩みや相談ごとを聞いて対応してもらうことで、メンター自身の成長にもつながっているようです。

メンターとメンティの間ではどのようなコミュニケーションの工夫がありますか。

後藤氏:定期的に対面で会って1対1で話すことは、運営側からメンターにお願いしていることです。日々のコミュニケーションは、主に社内SNSでやりとりしています。また、月に1回程度、対面やオンラインでのミーティングを実施しています。 メンター同士も個別に相談をし合い、社内でおすすめの書籍情報やセミナー情報を共有しています。メンターとして選んだ社員は、専門領域に特化した「自ら学ぶ人」を選んでいるので、それぞれの専門知識をお互いの弱点を補いあうような形で情報交換しているようです。 また、毎月メンターが集まる状況報告会があるのですが、その会に合わせてメンターの方もメンティの今の状況や課題点などを収集してきてくれています。





メンターの活動状況についてレポートするような場所として報告会があるということでしょうか。

後藤氏:はい、毎月メンターを集めて報告会を実施していますが、そこでは特にエスカレーションしなければいけない問題や利用しているセミナーやtrackへの要望といった、課題ベースで話をしています。上がった課題については、各本部長が直接対応したり、重要度によってはその報告会の場で制度を作るという方針を決めることもあります。全社一体で課題を即時解決する姿勢を持つようにしています。

横山氏:毎月の報告会には、私たちはもちろん、「IWIカレッジ」を創設した本部長たちと社長も出席しています。メンターも本業務でかなり忙しいなか、丁寧に面倒をみてくれているのがその報告会の内容からも伝わってきますので、安心して今まで以上に任せています。
社長も本部長たちも、メンターが期待値以上によくやってくれているという感想を持っていて、お褒めの言葉が多くあります。そこでの実感値が、任せる環境づくりに大きく影響を与えていると思います。先日は、本部長から「メンターたちがすごく頑張っているから」と手当を支給してはどうかという話があり、その場で決まったこともありました。それほど社内ではメンターの働きが評価されています。

  メンター代表(左:城さん)とメンティ代表(右:矢野さん)にも撮影にお越しいただきました。

■自主学習でITリテラシーテストの平均点数が30点向上

こうした育成方針における効果としてどのようなものがありましたか。

後藤氏:誤解の無いように前置きをすると、会社全体の想いとして「自ら学ぶ」マインドをもってもらい、今後10年、15年、20年後に新しいビジネスを作っていける人材が育てばという考え方がこれらの施策の軸になっています。ですので、経営層から費用対効果を問うような話は一切ないんですよ。月次で行う報告会に、きちんと社長や本部長や私なんかが出て、メンターの話から実態を把握する。彼らの様子をみて、「これはすごく効果があるな」と感じることが大事だという考えなので、あまり効果測定にはこだわってはいません。笑
とはいえ、やはり効果を可視化するための一つの手段として、「GAIT(ゲイト)」というITリテラシーのテストをメンティには年2回受験してもらっています。定期的な健康診断のような形ですね。

横山氏:最初は今年の2月に受けてもらい、その後6月に再度受験してもらいました。2月から6月の間でも平均で30点上がっていたので、それなりに知識量は増えたかなと思っています。

後藤氏:若手に身につけてもらいたいと思っている、日々の学習意欲にも変化が見えました。報告会の中で出てきた話で言いますと、元々プログラミング学習へのモチベーションが上がっていない人が、「trackを1からやることによって(モチベーションが)上がるようになってきました。」という意見が結構でていたので、プログラミング未経験者が居る中でのツール選択としては良かったのかなと思っています。また、たまたま前回の報告会で出た声なのですが、今年の4月に入社した17名が割り当てられた後、「実力を探るために一度問題を配信して様子をみて調整しようと思います。」ということを言っていたメンターもいたので、trackの理想的な使い方をしてくれているなと思いました。

   

撮影取材時には、メンター代表の城さんとメンティ代表の矢野さんにお越しいただき、「IWIカレッジ」についてコメントをいただきました。

城氏:メンターはメンティに学習を強制する立場ではなく、あくまでも手助けをする立ち位置を任されています。実際、業務が忙しかったり、モチベーションが上がらないと言った悩みが出てくるとは思うのですが…良き相談相手として、そうした学習管理以外の部分もサポートできるように心がけています。メンティから相談をするというのは難易度が高いと思いますので、こちらから声がけをすることはコミュニケーションを取るうえで意識していますね。

矢野氏:まさにメンターの方が、「最近どう?」「学習時間とれてる?」という声がけをしてくれることによって、学習に取り組まなければいけないなと気づくことができています。メンターの存在は、メンティにとって学習意欲につながるのではないかと思います。

私が初めてメンターに会ったのは「IWIカレッジ」がきっかけだったのですが、最初は話すのにも緊張しました。笑 どのように踏み込んで関係性を築けばいいのか、と迷っていたので定期的な面談や声がけはとてもありがたかったです。

■さらなるスキル強化の課題とは

今後、若手の育成についてさらに取り組んでいきたいことがあれば教えてください。

後藤氏:「IWIカレッジ」では、コードを書く様なプログラミング能力とITリテラシー、いわゆるデータベースだったりOSだったりというような幅広いIT知識というもの、最後にビジネススキルという3つのスキルを習得することを目標に掲げています。 プログラミング能力はtrackで、ITリテラシーの部分はtrackや書籍、インターネットや技術セミナーを用意して、ある程度補うことができています。ただ、ビジネス的な能力というところがやりたいと思ってはいますが、計画からするとできていないところです。 ビジネスというと広義になってしまうのですが、目的は最初に話しましたとおり、専門性と幅広い知識を持ったエンジニアが新しいビジネスを作り出すというところなので、ビジネスを作るための考え方や進め方という基礎能力を鍛えられるような環境が用意できるといいなと思っています。

横山氏:現在の環境ですと、遊び的な要素が少なく、黙々と勉強するだけになってしまっています。「学ぶ」というものをもっと楽しくできるようなことを用意していきたいなと個人的には思っています。例えば、プログラミングコンテストを部門対抗で行うとか、ハッカソンのようなイベント的なものを用意できるといいなと。ゲームのように学んだり、身につけたことを競わせるような要素があるといいですね。)

ありがとうございました!

この記事をシェアする

  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

関連記事

AgileHRが開催する
エンジニアHRに特化した
トークイベント

Agile HR

# タグから探す

-