■Speaker 情報
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
人事部 採用育成センター
理系職採用 リーダー
延谷 直哉 氏
コニカミノルタ株式会社
人事部
人財採用グループリーダー
築澤 孝治 氏
日本ユニシス株式会社
人事部 採用マネジメント室
新卒採用チーム リーダー
田村 日和 氏
■Moderator 情報
株式会社POLプロフェッショナルサービス部
責任者
山永 航太 氏
■イベントレポート概要
DX時代の到来に加え、コロナ禍により新卒採用のあり方が大きく変化しています。自社のDX推進を牽引できる先端IT人材を獲得するために、大手企業ではどのような採用手法を導入しているのでしょうか。今回は、「大手メーカー・SIerが取り組む先端IT人材の新卒採用戦略」をテーマに、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の延谷直哉氏、コニカミノルタ株式会社の築澤孝治氏、日本ユニシス株式会社の田村日和氏をお招きし、技術系のトップ人材の採用フローや今後の採用戦略などについて、トークセッション形式でお話しいただきました。
■採用手法は「不特定多数」から「求める人材へのアプローチ」へ
山永氏:本日モデレーターを務めます、株式会社POLの山永と申します。今回は、SIerとメーカーの3社様の取り組みを深堀りして皆さまにお届けしたいと思っております。まずは、最初の質問です。DX推進を担う技術人材をどのような人材と定義し、どのような名称を付けて新卒採用を進められているのでしょうか。
延谷氏:当社の技術人材は、技術系コースとシステムエンジニア(SE)コースという2コースを設けて募集をしています。22卒に関しては技術系とSEを合わせて約140名の規模で採用を進めています。なかでも、今後のDXを担う人材は「高度ICT人材」として、全体の約2割を採用する計画を立てています。
母集団形成方法は大きく2つです。一つは外部連携ですね。ナビサイト活用やPOLさんやギブリーさんのセミナーへの登壇のほか、最近はLabBase※を活用してダイレクトリクルーティングに取り組んでいます。もう一つは内部連携です。当社社員との連携に加えて、富士フイルムホールディングスとしての連携も含めて、自社セミナーやインターン、リファラルなど、一般的な施策は網羅しているかと思います。
※「LabBase」:株式会社POLが提供する理系に特化した採用スカウトサービス
選考プロセスは書類審査、人事面談、技術面談、最終面談ですが、昨年度からは応募のフェーズでtrack※を導入し、ICT職種を希望する方にはオンラインプログラミングテストの受検をお願いしております。ICT職種を希望する学生さんからすると、例年と異なるプロセスで「えっ!?」という感じがあったかもしれません(笑)
※「track」:株式会社ギブリーが提供するエンジニアのスキルチェックサービス
山永氏:ありがとうございます。では続いて築澤様お願いします。
築澤氏:当社はIT人材を「画像IoT人財」と名付け、コース別で採用しております。新卒技術系は全体では50名ほどで、「画像IoT人財」は約1割になります。SEは顧客に近い販売会社で採用しているため、当社はあくまでも開発職や研究職がメインになります。
母集団形成方法はこれまでナビサイトが中心でしたが、コニカミノルタの認知度が低く、ナビを利用しても効果が薄いだろうと考えました。そこで、ハッカソンのようなイベントを開催したり、当社が狙うようなITスキルの高い学生さんへのダイレクトリクルーティングに少しずつ取り組んでいるところです。OBやOGによるリクルーター活動は一旦休止し、この施策に集中しています。
選考プロセスは富士フイルムビジネスイノベーションさんと同様に、書類選考の後、trackでプログラミングスキルをしっかり見た上で面接に進むというステップを踏んでいます。
山永氏:OBやOGのリクルーター活動を休止された理由が気になるのですが、背景をお聞かせ願えますか?
築澤氏:オンラインになる前から採用効率は低下してきていました。リクルーターの年齢層が上がってきたこととで学生との接点も弱まり、なかなか優秀な人材にコンタクトできなくなってきたこともあって、オンライン下において活動を休止しました。
山永氏:オンラインに移行したから変えたのではなく、総合的に考えて、このタイミングで一旦ストップしたということですね。続いて田村様はいかがでしょうか
田村氏:エンジニア系は「AIエンジニア」「ソフトウェアエンジニア」「セキュリティエンジニア」「製造エンジニア」に分類し、ビジネス系では「ビジネスプロデュース」「セールス」のほか「研究開発」も一部設けています。新卒採用人数はだいたい100名程度で、高度ICT人財の割合はこのうち約1割。採用スケジュールで言うと、8〜9月がインターンシップで、3月から本選考の一般公募がスタートします。
主な母集団形成方法は、高度ICT人財の場合はほとんどがダイレクトリクルーティングで、LabBaseが中心です。ナビサイトの場合、ご応募はいただいても残念ながらスキル面でミスマッチしてしまうことが多いのです。その点、マッチしそうな方にだけお声がけできるダイレクトリクルーティングは非常に効率が良いですね。
山永氏:日本ユニシスさんはLabBaseご活用企業様の中でも非常にうまく活用していただいていると思いますので、この辺りは後ほど詳しくお聞きいたします。
■大手企業が先端IT人材に求めるプラスαのスキルとは
山永氏:DX推進を担う技術系人材のネーミングや定義付けは3社様でそれぞれ異なりますね。コニカミノルタ様の「IoT人材」や「画像IoT人材」が非常に分かりやすいと感じたのですが、少し補足いただけますでしょうか。
築澤氏:当社がこれから新たなビジネスを展開していくには、通常のソフトウエア開発者だけでなく、より専門的な知識を有し、かつそこにITを使って自ら顧客価値を創りだし、世界を変えていきたいという高い志のある学生を採用する必要があります。そこで、人材像を明確に打ち出すために「画像IoT人材」という専門コースを設けました。この人材に関しては配属先も決まっていることが前提で、母集団形成から配属まで一貫して採用活動を行っています。
山永氏:そこで募集する人材は、一定の画像認識や画像処理ができればコースに乗れるものなのでしょうか。もしくはもっと上のレベルを求めていらっしゃいますか?
築澤氏:trackで一定のレベルを有していれば面接には参加できます。自己研鑽が大切な領域なので、自ら学び、自己成長のために研鑽できているか、グローバルな視野で技術動向を把握できているか、またハッカソンに参加したりWebサービスアプリを開発したりと、自分の意思で経験を積んでいるといった点も合わせて選考し、初めてご来社いただくことになります。
山永氏:やはりかなり高度な人材ですね。今、「自己研鑽が大切な業界」というお話がありましたが、富士フイルムビジネスイノベーション様も近い業界だと思います。御社の場合は「高度ICT人材」と名付けておられますね。
延谷氏:DX推進を担う人材は、「創る人材」と「提供する人材」の大きく2つで考えています。創る人材で言えば、自然言語処理や画像処理による機械学習・深層学習などのアルゴリズムの基礎研究と、その技術を商品・サービスへ落とし込む応用研究、当社に集まる膨大なドキュメントに関するビッグデータの分析・予測を推し進めていく人材を「高度ICT人材」と呼んでいます。一方、提供する人材は、自社の製品・技術だけでなく、社外の新たな技術も活用し、スピード感をもってお客様のDXを実現していく役割です。ICT技術のスキルに加えて、こちらの人材像としてはビジネスマインドとコミュニケーションスキルも求められます。お客様の業務プロセスの課題を洗い出し、最適な提案によってお客様の業務変革を実現していく人材であり、こちらは「DX推進人材」と呼んでいます。
山永氏:コニカミノルタ様も御社も、新しく導いていく人材、自立して自走していく人材を求めていらっしゃるのですね。IT大手のメーカー様は少し堅い印象がある中で、ローコード、ノーコードやアジャイルを推進する人材というキーワードが出てきて、非常に進んでいらっしゃると感じます。一方で、SIerという異なる業界で知名度の高い日本ユニシス様はいかがでしょうか。
田村氏:当社では、高い技術力で組織をリードする方を「ハイスキルエンジニア」という名称で募集しています。職種はAIエンジニアやソフトウェアエンジニアが中心です。LabBaseのデータベース上では、候補者のプログラミングスキルがレベル付けされていて、レベルやスキルで絞り込むことができます。この機能を活用し、Mustのスキル、Wantのスキルを組み合わせ、条件が合う方にダイレクトリクルーティングを行っています。
高度ICT人財であるハイスキルエンジニアに求めているのが、アルバイトや長期インターンシップなどで一連の実務開発経験があることや、研究などで学術的に優れた成果を出されていること。ここが違いですね。また、スタートアップやベンチャー企業などでビジネスサイドにも関わったことがある方にもお声がけをしています。
実際に今年度の内々定者の中には、海外の研究室に推薦されて研究に取り組まれ、また長期インターン先で2年間iOSのゲームアプリ開発を経験されたソフトウェアエンジニアがいます。この方は英語もビジネスレベルでしたね。もう一人のAIエンジニアは、自然言語処理や画像解析などで当社の中堅社員レベルのプログラム開発能力を持っている、と社員に言わしめたほどです。選考を終えてみて、即戦力として活躍される見込みが高い方は、すでに企業様にて一連の開発工程を経験されている方が多いという印象を受けました。
山永氏:trackやLabBaseのスキルレベルを活用して通常のプログラミングスキルに一定のボーダーラインを引きつつ、さらに自立、自走をしていくようなパワーや、ビジネスサイドの経験など、プラスアルファの要素を求められている点が、通常のIT人材採用と差別化されているところなのですね。
■採用強化の背景にあったのは現場の課題と危機感
山永氏:コニカミノルタ様や富士フイルムビジネスイノベーション様の業界はこの5年ほどでガラリと変革したと思いますが、そういった背景が採用強化につながったのでしょうか。
延谷氏:当社では、DXという言葉がまだ流行していなかった2016年頃から、IT人材を採用しようという声が現場から上がり始めていたという背景があります。自然言語処理や画像処理を代表とする人工知能の研究を30年以上継続しており、社会実装のフェーズに至る中で、研究だけでなく、これからは開発やSEの人材にも専門性の高い人材が必要だという悲鳴めいたものが聞こえてきて・・・。
山永氏:悲鳴めいたものという現場からの声はどのように拾っていったのですか?
延谷氏:2016年当時、研究部門と連携をしてAIに関するインターンシップをスタートさせたのですが、企画検討する中で研究者の方と欲しい人材の要件についてディスカッションをすることが多々あり、現場で起きていることについていろいろとヒアリングができました。そこから、事業を進めるためには、実際にアプリケーションを開発する・そして提供する側にも高いICT技術を持つ人材が必要だという課題が見え始め、採用していく人材のあるべき姿をゼロベースで考え直そうということで活動を始めました。
築澤氏:当社も2016年頃、デジタルワークプレイスへ事業転換していくタイミングでした。この事業部や開発部門にIT企業からの中途採用人材が揃いつつあり、プロパーというよりやはりこうしたIT企業からの人材が「これではだめだ」という声を上げたんです。その声を受けて、人事もタッグを組んで、技術のトップも巻き込んで一気に加速させました。
山永氏:中途人材の風が入ることによって危機感が社内でも生まれていったのですね。そういったことを推進してくれる人材を見つけることも非常に重要ですね。
では、ハイスキルエンジニア採用を強化された背景について、田村様いかがでしょうか。
田村氏:高度ICT人財の採用は、19新卒からスタートしていますが、本格的に始動したのは22新卒からです。私たちのミッションでもある「先見性と洞察力でテクノロジーの可能性を引き出す」ことを目的とした時に、リーダーシップを発揮して変化を恐れずに当社を率いてくれるエンジニアが必要だと定義したためです 。
当社には、SI事業で顧客から信頼を得てビジネスを支援するといった人材は非常に多く在籍しているのですが、一方で新規事業の創出やより高度かつ最先端の技術への関心を持つ人材が相対的に不足していることが課題でした。SI事業はミッションクリティカルであることからも失敗が許されないという性質があるので、それらに真摯に10年20年と携わっている方に「失敗してもいいからやってみて」というのはなかなか難しいところがあります。それなら最初からそういう志や専門性をお持ちの方に入ってもらったほうが、私たちにとっても候補者にとってもよい結果をもたらすはずだ、いうことでチャレンジを始めました。
山永氏:現場のニーズが強かったというより経営方針として示したものをキャッチして採用で進めていったのでしょうか。
田村氏:どちらかというと、採用からのボトムアップで人事部長に投げて通してくださったという感じですね。「採用の課題をどう解決したらいいか分からない」「そもそも採用できるの?」というところから現場と一緒に頑張ってきました。
イベントレポート前半として、各社がDXを推進する人材に求めるスキル感やマインドセット、彼らの採用を始めた背景などをお話いただきました。後半では、具体的な採用手法や現場エンジニアを巻き込む方法などを深堀りしていきます。