2024.12.11

メーカー企業のデジタルビジネス変革の中核を担う
サントリー流新卒デジタル人材育成とは
~「リアルアセット」を活用した独自のカリキュラムを公開~

■Speaker 情報


サントリーホールディングス株式会社
デジタル本部 DX戦略部 人財G課長
服部 亜起彦
2005年サントリー株式会社入社。入社後11年間酒類営業に従事、2016年-2023年本社人事部門にて全社の人財育成の企画・施策運営、 理念共有活動、学びのプラットフォームの企画・運営を担当。2023年より現職、デジタル×人事アクション(採用・育成・異動など)で経営・事業課題を解決し、サントリーをデジタルドリブンな会社に成長させるべく奮闘中!

株式会社ギブリー
執行役員 人事部管掌 兼 育成ソリューション事業部 シニアプリンシパル
森 康真
北海道大学工学部情報工学科卒業、同大学院情報科学研究科修士課程修了。SAPジャパン株式会社、株式会社野村総合研究所を経て入社した株式会社ワークスアプリケーションズでは採用担当として数々のプロジェクトに関わり、エンジニア採用責任者として当時先進的なジョブ型採用手法を確立する。19年3月より株式会社ギブリーに参画し、これまでのエンジニア/人事/コンサル経験を生かし、研修運営事業の立ち上げを担う。6年目の現在は約30案件・6000人の人材育成プロジェクトの企画・運営に携わる。23年10月からは人事管掌役員として自社の採用・育成にも従事。

■イベント概要


「メーカー企業のデジタルビジネス変革の中核を担うサントリー流新卒デジタル人材育成とは」というテーマについて、サントリーさん独自の研修設計やその背景を中心に、詳しくお話しいただきました。

■会社紹介


:本日ご登壇いただきますのは、サントリーホールディングス株式会社 デジタル本部 DX戦略部 人財G課長の服部様でございます。まずは、サントリーホールディングス様のご紹介を服部さんからお願いできますでしょうか。

服部氏:弊社は「やってみなはれ」という企業理念をもっております。グループのありたい姿については、皆様の会社でも目標を定めていらっしゃると思いますが、弊社も中長期的な目標として「世界で最も信頼され、愛されるオンリーワンの食品・飲料総合企業」を掲げており、目標へ進んでいます。特に、清涼飲料と種類ビジネスをポートフォリオとして持つ企業は、グローバル規模で見ても多くはなく、この点においてのユニークさをしっかりと維持しつつ、私たちが大切にしている「やってみなはれ」や「MONOZUKURI力」を活かして、さらに前進していこうと考えている会社です。

弊社はものづくりを中心としたメーカーであり、製品を通じてお客様に価値を提供することが求められると思いますが、単に物を売ることや企業としてのビジネス成果を上げることだけではなく、私たちの企業活動を通じてお客様の豊かな生活や文化を追求し、楽しさや豊かさを提供することを目指しています。

弊社のグループ概要についてご紹介しますと、グループ全体で約270社を有し、グローバル規模で従業員数は約4万2千人、売上高は3兆円弱となっています。また、サントリーの製品ポートフォリオは非常に多岐にわたり、種類や清涼飲料が有名ですが、健康食品や外食ビジネス、さらにはハーゲンダッツなども展開しています。あまり知られていないかもしれませんが、サントリーホールやサントリー美術館、スポーツチームなども所有しており、これらを通じてお客様に豊かさを届けることに日々取り組んでいる企業です。

:サントリーさんの製品や事業は、サントリーホールなどの不動産から自動販売機までに及んでいるとのことですが、これらが本日のサブタイトルである「リアルアセット」を表現していると理解してよいでしょうか。

服部氏:そうですね。ですので、「リアル」という言葉が示す意味合いは、飲み物以外のさまざまな事業や活動にも広がっている点をぜひご理解いただければと思います。さまざまなリアルなアセットを通じてお客様と接点を持ち、デジタルの面ではお客様からいただいた情報を分析し、それを私たちなりのアクションとして還元していくことで、お客様との体験のループを回すことを目指しています。デジタル領域においても、こうした取り組みに大きく注力しているところです。

冒頭でもお伝えしたように、弊社の企業活動は単に物を売ることやビジネス成果を追求するだけでなく、製品を手に取っていただいたお客様が楽しさや豊かさを感じられることを目指してきました。これからも、この思いを大切にして活動を続けていきたいと考えています。

また、サントリーはバリューチェーンの多くの機能を自社で保有しています。すべての機能を完全に内製しているわけではありませんが、全体の設計を行い、ものづくりから広告やお客様との接点まで、価値を生み出す過程を一貫して手がけています。いわば「モノづくり×コトづくり」を重要視し、現場に採択権を与えつつ、一連の事業活動を展開している会社です。

■サントリーのDX戦略


:ここからは本日のテーマ、デジタル人財育成へつながっていくDX戦略のお話をお伺いできればと思います。

服部氏:はい。デジタルがどのように役立つかという点について、初期の段階からさまざまな議論を重ね、デジタル活用のあり方を磨いてまいりました。大きく2つに分けて捉えられると考えています。

1つ目は「守りのDX」とも呼ばれる、業務オペレーションの改善やBPR(業務プロセス再構築)といった、既存プロセスを磨き込んで効率化・最適化を図る側面です。2つ目は「攻めのDX」として、新しい価値やビジネスを創出することを目指し、革新的な商品やサービスを生み出すことに取り組む側面です。この2つの側面はどちらも欠かせず、バランスを保ちながらデジタルを活用していることが重要だと考えています。

DXの取り組みについては、プロセスだけでなくプロダクトの改善にも注力し、両者のバランスを保ちながら進めています。社内のデジタル本部では、3か月ごとに全体会議を実施し、進捗を共有するとともに、新しい取り組みや既存プロセスの改善も共有し、利用者の活動を通じて得られた気づきやインサイトを相互に還元し合っています。こういったサイクルを通じて、DXの取り組みを継続的に推進しています。



また、デジタルを活用して顧客体験を向上させることも大切にしており、我々の強みである「モノづくりの力」と「コトづくりの力」を生かし、サントリーとしてのプロダクトやサービスを提供しています。同時に、新たに生まれる技術やトレンドを積極的にキャッチアップし、テクノロジーを活用する力を磨くことにも注力しています。特に、顧客接点から得られたデータを次の活動にフィードバックし顧客体験を向上させる「フィードバックループ」を回し続けることを大事にしています。

このような形で、デジタルを通じてビジネス成果を上げるとともに、社会やお客様に新たな価値を提供し、革新を続ける手段としてDXを活用しています。デジタルやDXは手段であり、目的ではないと捉え、定期的にその在り方を見直しつつ進めています。デジタルを通じて「世界で最も愛される企業」を目指していきたいと思っています。

■デジタル人財育成の採用方針


:ありがとうございます。では、どのようにデジタル人財を育成しているのか、あるいはどのような採用方針を取っていらっしゃるのかをご説明いただければと思います。

服部氏:先ほど申し上げました通り、当社ではデジタルを通じて世の中に豊かさを届けることを目指しており、そのためにデジタルをどう活用するかについても検討を重ねております。ここでは、それを人財の視点で考えた際に、どのような人財が必要となるかを領域別に整理しています。





1つ目はデジタルマーケ人財です。ここには、顧客体験やランディングページ、UI/UXなど、顧客の目に触れる領域で専門的な知識やスキルを持つスペシャリストが含まれます。
2つ目はデータ人財です。データを深く考察し、ビジネスソリューションにつなげる提案ができるような人財を指しており、ビジネスに役立つインサイトを引き出せるスキルが求められます。
3つ目はIT人財です。アプリ開発やデータ基盤の構築を支え、デジタルの基盤を支える役割を担います。

これら3つの人財が欠けることなく揃っていることで、デジタル推進が成り立つと考えており、当社ではこれを「デジタル3人財」と定義しています。それぞれの人財を細分化した定義も行い、採用や育成アクションに活用しています。



次に、デジタル本部での育成アクションについてです。こちらは、デジタル本部が全社や自部門に向けて実施している育成施策をまとめたシートです。青色で記載されている縦軸は対象者の階層や役職、横軸は対象部門や機能を示しており、全方位的な育成アクションを展開しています。

この育成アクションには大きく2つのポイントがあります。1つは「デジタル3人財」と定義した3つの領域、つまりデジタルマーケ、データ戦略、サントリーシステムテクノロジー部門が協力し、専門人財の育成に責任を持っていること。もう1つは、デジタルリテラシーの向上に全社的に取り組むことです。今年は特に、経営層向けのリバースメンタリングに力を入れ、デジタルの重要性を理解し経営に活用していただくためのセッションを設けました。

また、50歳以上の社員に向けたChatGPTの活用研修をステップ1、2に分けて実施しました。ステップ1では2,000名以上の社員全員が参加し、ステップ2では実践的な研修を1,000名に実施しました。
このような形で、デジタルの力を活用し、全社に与えるインパクトから逆算したさまざまな育成アクションを実施しています。今年は手法や対象を変えながら試行錯誤しており、うまくいった点や課題を冷静に振り返ることで、来年度に注力すべきポイントを再度定めていきたいと考えています。

また、デジタル本部向けには、次世代の経営層育成を目指したインテンシブなプログラムも実施しており、社内外の機能をさらに強化するための取り組みも展開しております。

:サントリーさんは自社の中で独自のチャットGPT環境を構築されているとお伺いしていますが、シニア層も含め、全員で生成AIを使っていくための教育を強化されてるということでしょうか。

服部氏:そうですね。私たちは「現場でデジタルを活用できるようにする」ことを共通のテーマとして掲げています。生成AIの活用もその一環ですが、最近では現場で必要なアプリを自ら作成できる環境を整えることにも取り組んでいます。このような取り組みによって、現場の従業員がやるべき業務により多くの時間を割けるようになり、業務の高度化が実現されることを目指しています。

デジタル本部としても、このような環境整備や考え方の浸透に注力しており、昨年から今年にかけては特にその基盤作りに多くの時間を割いてきました。その結果、現場でのデジタル活用が徐々に浸透してきたと感じています。この先は、さらに現場の活用事例が増え、既存の基盤の上に1段階上の応用が加わっていくと考えています。今後も「現場でのデジタル活用」がキーワードであり、さらにその可能性を広げていけるのではないかと思っています。

:ありがとうございます。それでは続けて、サントリーさんの人財の考え方についてお伺いします。新卒の方をどのように採用していくのかにも関わってくる部分かと思いますが、お話いただけますでしょうか。



服部氏:デジタル人財に特化した採用ポリシーではなく、サントリー全社としての採用ポリシーになるため、やや広範な内容となりますが、企業としての個性が反映される部分でもあるため、ぜひご紹介させていただければと思います。

昨今、どの企業でも「人財が資本である」とする考え方が一般的になっていますが、サントリーでは創業当時から「人が命」という理念を掲げてきました。近年では「人本主義」という言葉も広がってきており、私たちも社員に対して積極的な投資を行うとともに、社員を「家族」として考えています。また、基本的に社員の雇用調整を行わない方針を貫き、厳しい時期であってもその姿勢を貫いてきました。

それほどに「人が命」という理念を大切にしている企業です。新卒で入社される方々は大きな可能性を持った「会社の宝」であり、私たちはその成長を見守り、支援していきたいと思っています。そのため、社員一人ひとりが会社に対して深くコミットし、幸せを感じながら働いていただけるよう、「カルチャーフィット」の観点も重視しています。この「人が命」という基本思想は、採用チーム全員が常に持っているものです。

また、サントリー社員は人事部門以外の社員も人に対する関心が高く、互いを尊重し合う企業風土があります。新入社員に対しても、「仲間になってほしい」「何か可能性を感じる」「リスペクトできる面がある」と感じられることが重要だと考えています。採用チームとしても、「サントリー社員が誇れる人財を迎え入れる」という意識を大切にしています。

さらに、サントリーでは「全員が戦力」として、全社員がそれぞれに会社を支える存在であることを目指しています。特定の1人に依存せず、全員で会社の屋台骨を支え合うという考え方を大切にしており、この方針はデジタル部門においても共通しています。

■デジタル新卒採用と新人研修


:ありがとうございます。では、本日のテーマになる新卒研修のお話をぜひお伺いしたいと思っております。まずはデジタル人財獲得における課題と方針についてです。
サントリーさんの採用ブランディングは非常に確立されていますが、「デジタル人財」におけるサントリーさんのブランドイメージについては、まだ学生の間で十分に浸透していないと認識しております。具体的には「デジタル=サントリー」という印象がまだ根付いておらず、これが1つの課題だと伺っています。

そのため、採用ブランディングを強化することで、テック経験のない学生でも入社後に成長できる環境を整備し、徐々にテック経験のある優秀な学生を増やしていくことを目指しているとのことで、弊社もこの方針のもと、ここ2年間にわたりサントリーさんの新人研修に携わらせていただき、採用した学生の成長を促し、スムーズなオンボーディングを行うための取り組みを支援しています。また、弊社のデジタルスキルアセスメントツール「Track」を使用し、学生のデジタルスキルを評価していますが、昨年の23卒に比べ、24卒の方々のスキルレベルが着実に上がってきていると感じています。

さらに、サントリーさんでは「人間性」を重視しており、高い人間性を持った人財の確保にも注力していると認識しています。服部さんのお話にもありましたが、人間性は、具体的にはどのような要素を求めていらっしゃるのかお伺いできればと思います。

服部氏:そうですね、他者との向き合い方やコミュニケーション能力といった要素は、非常に重要なポイントです。また、平たく言えば「地頭の良さ」も人間性に含まれると思います。

サントリーでは「やり抜く力」、いわゆる「グリット」とも呼ばれる資質も大切にしています。当社には「やってみなはれ」という精神が根付いており、常に「君はどうしたいのか?」と問いかけながら進む文化があります。ただ「やってみなはれ」と言うと、旗を掲げて自由に取り組むだけのように思われがちですが、実際には「やると決めたことはやりきる」という覚悟が求められる社風です。

そのため、何かをやり遂げる強い意志を持って物事を始め、それを最後までやり抜く力を持った人財を求めています。自分の頭で考え、目的に応じた取捨選択ができることも重要だと考えています。



:「個別判断」が何を指すかについて参加者から質問をいただいています。この図のオレンジの部分が採用のターゲットとしている人財になります。一方で、黄色の部分に該当する人材についても、様々なスキルを総合的に勘案して、採用基準を満たすかどうかを判断しているとのことで、この判断基準が「個別判断」としてご理解いただけるとよろしいかと思います。

具体的には、「デジタル面では優れているが、サントリーのカルチャーへの適応に不安がある」または「カルチャーにはフィットするがデジタル知識が不足している」などのケースです。このような場合も、採用に至るか否かを個別に判断する形になるということですね。

服部氏:そうですね。こういった人財がデジタル&テクノロジー部門として採用された後、デジタルの基礎研修を通してスキルを向上させ、最終的にはデジタルビジネス人財やデジタル系スペシャリストのキャリアパスに進んでいく流れが構築されています。




:ありがとうございます。今年のデジタル部門向けの人事研修については、デジタル領域に特化した人材だけでなく、幅広い層が活用できるようにデジタルの基礎的な知識を身につけること、さらにデジタル系業務のOJTを行えるレベルにまで育成することを目的に研修が行われているとのことですが、「OJTを実施できるレベル」というのは、具体的にどの程度のスキルや知識を求めているのでしょうか?

服部氏:そうですね。個々のスキルに差はあるかと思いますが、共通して求めたいのは、専門性の深さというより、研修期間の3か月を通じてデジタル業務がどのように進むのか、まずそのプロセスを把握することです。また、現場に出るとわからないことが多くあるため、自分で考えたり調べたりしながら現場業務に適応し、独力で学びながら成長していける姿勢も重視しています。

:ありがとうございました。では、次に進みます。
2023年以降のデジタル部門の新人研修を弊社が担当させていただきましたが、その際に当時のご担当者様を交えて、研修設計のポイントを議論し、以下の3点を重視されたいとお伺いしました。

1. 自発的・能動的な学びを促すこと
2. 受講生の個性やスキルレベルに合わせて臨機応変に運営すること
3. サントリーのアセット×デジタルを自分ごととして考え体験設計をすること

今回ギブリーに研修実施をご依頼いただきましたが、弊社が担当する前の研修においては何かここに至るような課題感というのがあったのでしょうか?

服部氏:ご指摘いただいた通り、過去の研修内容では自発性を十分に促せていなかった点が課題でした。座学中心で、アクティブラーニングや実践を通じた学びにはなっておらず、インプットとアウトプットを繰り返しながら実践知に変えていく要素が不足していたことが大きかったかと思います。

:そうですよね。私たちのギブリーの研修は、実践を重視したスタイルで、学びを通じて「魚の釣り方を教える」ような内容です。サントリー様の求めるスタイルとも一致したのではないかと感じております。

新人ケアについては、Track上での日報提出機能を通じて、1日の振り返りを行える仕組みも導入しました。懸念がある受講生には即座に対応し、日報のコメント機能を活用して、研修生とメンターが毎日コミュニケーションを取れるようにいたしました。今年からのこの新しい取り組みによる効果はいかがでしたでしょうか?

服部氏:そうですね、この機能を取り入れていただいたおかげで非常に助かりました。特にデジタルの初期スキルにばらつきがあったため、下のレベルの受講生がついてこれない場合にも、日報で早期にキャッチアップでき、ギブリーさんや事務局での情報共有をスムーズに行わせていただきました。

その結果、必要に応じて補講セッションを設けることで、スキルやマインドの面で脱落者を出さずに済みました。また、新人には現場のメンターが付き、コメント機能を活用したメンターとの毎日のコミュニケーションを通じて、現場OJTへのスムーズな移行にも役立ちました。中には日々のやり取りを通じてユニークなコメントを出してくれる新人もいて、コミュニケーションの一端としても非常に良い効果をもたらしたと思います。

:ありがとうございます。今年度の取り組みの変更点として、2023年度から2024年度にかけて、いくつかの新しい試みを導入しました。



まず1点目として、スキルアセスメントの再設計を行いました。これは、さらにレベルの高い人財を採用し、研修をよりハイレベルな内容に対応させるためです。

2点目として、より実践的なチーム開発への強化を行いました。昨年度の研修では、自立的に学ぶ一方で、専門分野やスキルに偏りが出てしまうという課題がありました。例えば、デザインや発表準備に重きを置き、コーディングの実践から遠ざかる受講者もいました。今年度は、コーディング業務からの距離を縮めるためにモブプログラミングを導入し、全員がコーディングを実践する場を設けました。また、GitHubといった現場で使われているツールの知識も取り入れることで、実際の業務に近い形でのスキル習得を図っています。

さらに講師体制の強化も行いました。昨年度は1人の講師が約20名を担当していましたが、今年度はサブ講師を追加し、2名体制で各受講生の多様なニーズに応えられるよう変更しました。
研修は毎年改善を重ねていますが、今年はこうした部分にフォーカスした背景について、服部さんにもコメントをいただければと思います。

服部氏:はい。改善実施の背景として、今年度は新入社員のスキルレベルに大きな差が生まれたため、上位層と下位層の両方に対応できるようなカリキュラムを設計したいという思いがありました。下位層に合わせてしまうと物足りなくなり、逆に上位層に合わせると難しすぎてしまうため、それぞれに対応できるよう、まずはアセスメントを強化し、個々のスキルを把握しました。それに基づいてカリキュラムを設計しています。

また、森さんのお話にもありましたが、一部の受講生が「この分野には興味がない」とコーディングから距離を置いてしまうことも昨年度は見られました。今年度はデジタル人財として必須となるスキルレベルを改めて定め、その基準を全員が達成できるようカリキュラムを設計しています。特に、難しいと感じていることがわかった受講生にはサポートを行い、全員が一定のスキルを持って現場に送り出せるようになったと感じています。

:ありがとうございます。ここまでで、自立的な学びや新人の状況に合わせたケアの重要性についてお話しいただきましたが、サントリーさんの研修には他社の研修にはあまり見られない特徴として、「リアルアセット」を考慮した独自の研修設計が取り入れられています。



服部氏:こちらが今年度の研修スケジュールです。まず最初に、オンボーディングワークを通じてIT業界の基礎知識を広く学び、併せて自社への理解を深めていただくところからスタートします。その後、ITリテラシーやプログラミングの基礎知識を習得し、最終的にはアイディアソンで顧客課題を発見し、ハッカソンで発見した課題の解決策を形にしていく、という流れが特徴となっています。

また、並行してマーケティング研修も行っており、実際のユーザーを想定したユーザーインタビューなどを実施し、その内容をアイディアソンやハッカソンで落とし込むことで、リアルアセットへの意識をデジタルの取り組みに結びつけるためのカリキュラムを提供しています。

:このような研修設計を行った背景について、再度お伺いしてもよろしいでしょうか?

服部氏:まずデジタルを通じて、企業全体として社会に豊かさを届けることが私たちの目指すところですが、新人社員には、自身がどの部門でどのような意義ある役割を果たしていくのかをしっかり理解してほしいという思いがありました。昨年来、ギブリーさんのご支援をいただきながら、今年は追加して、データを通じて顧客体験を高度化していくというサントリーのデジタル推進のあり方について、企業文化やDNAを理解してもらうためのセッションも組み込まれています。

これにより、UIやUXといった言葉が一般化する前から積み重ねてきたサントリーのUI/UXの考え方についても深く理解し、サントリーのデジタル戦略の基盤となる価値観を受け継いでほしいと考えました。

:実際、ユーザーインタビューでは、インタビュー用のスクリプトを新人社員自ら作成し、それを基にヒアリングを行うことがカリキュラムに含まれている点が、非常に大きな特徴でした。

また、今年の最終テーマとしては、サントリーグループ様が提供するWebサービス「COMADO」における新機能の企画立案を行う、というものでした。新入社員が現場配属後、すぐに新機能の企画を任される機会は多くないと思いますが、そうした中でこのようなワークを導入した理由についてお伺いできますか?

服部氏:実際にはいきなりプロダクトマネージャーとして全てを任せるわけではありません。しかし、サントリーでは入社1年目からデジタルサービスのプロジェクトに参加し、機能の責任を持って担当することが求められるため、こうした疑似体験を通じて、実際のOJTにスムーズに入ってもらいたいという狙いがありました。

:なるほど。完成した製品や企画の成果物を拝見すると、今年も非常に面白いものが多く生まれたと感じます。こうした研修も2年目となりますが、導入前との比較、または昨年と今年を比べた際に、成果物のクオリティや発表内容について、服部さんはどのように感じていますか?

服部氏:昨年の成果物でもすでに高評価を得ておりましたが、今年はさらにレベルアップしたと感じております。昨年はスクリーンショットやパワーポイント上のイメージで終わるチームもありましたが、今年は全員が実際に動作するものを作り上げてきました。講師の方も『企画の趣旨が伝われば、パワーポイントでの説明だけでも構わない』と話していたのですが、全員が動くものを提供してくれた点に成長やレベルの向上を感じました。また、現場の社員からも昨年同様、高評価のコメントをいただき、成長やレベルアップが確かに感じられました。

:ありがとうございます。他にも、研修直後だけではなく、実際に配属後数ヶ月が経過した後のフォローアップ調査も行われているかと思いますが、今年の結果についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

服部氏:やはりOJTにスムーズに入っていけることを重視しているので、現場の皆様がどのように受け止めているかや、新人たちの声をきちんと把握することが重要だと考えています。そこで、配属から約4ヶ月後に毎年アンケートを実施しています。

昨年と今年の結果を見ると、知識やスキルのベースがしっかりと身についていることが確認でき、受講者の7割以上が満足していると回答しています。その結果、OJTにもスムーズに移行でき、レベル感の違いにも関わらず、上位層、下位層ともに満足できる設計ができていたと感じています。定量的なデータはまだ示せていませんが、現場の社員や事務局の感覚として、今年は昨年よりもさらに成果が上がっていると実感しています。

:ありがとうございます。それでは、今後の課題点についてお伺いします。

服部氏:課題についてはいくつかあります。例えば、今年は全員が求められたスコアに達することができなかったため、全体の質をもっと高めるための設計が必要だと感じています。

また、研修の前半での動機づけが不十分だったのではないかと考えています。研修チームや会社が何を求めているか、現場でどのようなレベルが求められているかをもっと早い段階でしっかりと腹落ちさせていれば、学習に対する集中力も高まり、学習の取捨選択の質も向上したのではないかと思っています。全体としてのレベルアップを図るために、来年は動機づけやモチベーション維持の仕組みを強化したいと考えています。

:ありがとうございます。

■Q&A


:採用段階において、デジタル素養としてどういった部分を見て判断しているか、についてお聞きしたいと思います。この点について可能な範囲でお伺いできますと幸いです。

服部氏:そうですね。書類の中でいくつか事実を記載していただき、それをもとに見極めを行うこともありますし、面接を通じて会話を重ね、そのレベル感を総合的に判断するという方法も取っています。まず、サントリーのデジタル部門では、高いスキルを持つことが理想的ではありますが、必須ではありません。

採用段階では、育成とセットで活躍してもらうことを前提にしているため、必ずしも非常に高いスキルを求めるわけではありません。ただし、『デジタルに興味があります』というだけでは十分ではありません。その興味がどのような展望につながっているのか、またそれを実現するために、学生時代にどの程度触れた経験があるかという事実を確認させていただいています。つまり、意向と実行経験を総合的に見て、社内で定めた尺度に基づいて素養レベルを判定するという流れです。

:ありがとうございました。別の質問もいただいています。DXやAIの活用を進めるにあたって、障害となったことは何かあったのでしょうか。例えば、AIに会社のデータを入れることに対するセキュリティの懸念など、現場でよくある話だと思いますが、この点についてお困りのことがあったか、またあった場合はそれをどのように解決されたのか、お伺いできますでしょうか。

服部氏:そうですね、おっしゃっていただいたような事例は、弊社にも実際にありました。対応方法としては、デジタル本部側で対応ポリシーや明確なルールを設定し、そのルールに従う形で、例えば『ここまでなら許可されているが、ここから先はダメ』といった形で、範囲を明示しました。これによって、問題は解決したという状況です。

DXやAIの活用に関して言うと、弊社はもともとデジタルというよりはものづくりに強い事業会社ですので、基盤となる仕事のプロセスが非常に強固な会社です。そのため、デジタル活用という概念が一部では捉えにくい、あるいは抵抗感があるという現状があります。特に、デジタル活用に対する心理的ハードルが高いというのが、今でも感じている部分です。

これに関しては、先ほどお話ししたように、リテラシー教育を通じて基本的な理解を深めたり、実際の現場で成功事例を作ることによって、デジタル活用に対する手触り感を提供し、少しずつそのハードルを下げていくようにしています。こうした取り組みを通じて、徐々に社員の理解を深めているところです。

:ありがとうございます。お時間となりましたので、これにて本日のセミナーを終了させていただきたいと思います。本日はご参加いただきましてありがとうございました。
服部さん、ご登壇いただきまして誠にありがとうございました。

服部氏:ありがとうございました。


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  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

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