■デジタル新卒採用と新人研修
森:ありがとうございます。では、本日のテーマになる新卒研修のお話をぜひお伺いしたいと思っております。まずはデジタル人財獲得における課題と方針についてです。
サントリーさんの採用ブランディングは非常に確立されていますが、「デジタル人財」におけるサントリーさんのブランドイメージについては、まだ学生の間で十分に浸透していないと認識しております。具体的には「デジタル=サントリー」という印象がまだ根付いておらず、これが1つの課題だと伺っています。
そのため、採用ブランディングを強化することで、テック経験のない学生でも入社後に成長できる環境を整備し、徐々にテック経験のある優秀な学生を増やしていくことを目指しているとのことで、弊社もこの方針のもと、ここ2年間にわたりサントリーさんの新人研修に携わらせていただき、採用した学生の成長を促し、スムーズなオンボーディングを行うための取り組みを支援しています。また、弊社のデジタルスキルアセスメントツール「Track」を使用し、学生のデジタルスキルを評価していますが、昨年の23卒に比べ、24卒の方々のスキルレベルが着実に上がってきていると感じています。
さらに、サントリーさんでは「人間性」を重視しており、高い人間性を持った人財の確保にも注力していると認識しています。服部さんのお話にもありましたが、人間性は、具体的にはどのような要素を求めていらっしゃるのかお伺いできればと思います。
服部氏:そうですね、他者との向き合い方やコミュニケーション能力といった要素は、非常に重要なポイントです。また、平たく言えば「地頭の良さ」も人間性に含まれると思います。
サントリーでは「やり抜く力」、いわゆる「グリット」とも呼ばれる資質も大切にしています。当社には「やってみなはれ」という精神が根付いており、常に「君はどうしたいのか?」と問いかけながら進む文化があります。ただ「やってみなはれ」と言うと、旗を掲げて自由に取り組むだけのように思われがちですが、実際には「やると決めたことはやりきる」という覚悟が求められる社風です。
そのため、何かをやり遂げる強い意志を持って物事を始め、それを最後までやり抜く力を持った人財を求めています。自分の頭で考え、目的に応じた取捨選択ができることも重要だと考えています。
森:「個別判断」が何を指すかについて参加者から質問をいただいています。この図のオレンジの部分が採用のターゲットとしている人財になります。一方で、黄色の部分に該当する人材についても、様々なスキルを総合的に勘案して、採用基準を満たすかどうかを判断しているとのことで、この判断基準が「個別判断」としてご理解いただけるとよろしいかと思います。具体的には、「デジタル面では優れているが、サントリーのカルチャーへの適応に不安がある」または「カルチャーにはフィットするがデジタル知識が不足している」などのケースです。このような場合も、採用に至るか否かを個別に判断する形になるということですね。
服部氏:そうですね。こういった人財がデジタル&テクノロジー部門として採用された後、デジタルの基礎研修を通してスキルを向上させ、最終的にはデジタルビジネス人財やデジタル系スペシャリストのキャリアパスに進んでいく流れが構築されています。
森:ありがとうございます。今年のデジタル部門向けの人事研修については、デジタル領域に特化した人材だけでなく、幅広い層が活用できるようにデジタルの基礎的な知識を身につけること、さらにデジタル系業務のOJTを行えるレベルにまで育成することを目的に研修が行われているとのことですが、「OJTを実施できるレベル」というのは、具体的にどの程度のスキルや知識を求めているのでしょうか?
服部氏:そうですね。個々のスキルに差はあるかと思いますが、共通して求めたいのは、専門性の深さというより、研修期間の3か月を通じてデジタル業務がどのように進むのか、まずそのプロセスを把握することです。また、現場に出るとわからないことが多くあるため、自分で考えたり調べたりしながら現場業務に適応し、独力で学びながら成長していける姿勢も重視しています。
森:ありがとうございました。では、次に進みます。
2023年以降のデジタル部門の新人研修を弊社が担当させていただきましたが、その際に当時のご担当者様を交えて、研修設計のポイントを議論し、以下の3点を重視されたいとお伺いしました。
1. 自発的・能動的な学びを促すこと
2. 受講生の個性やスキルレベルに合わせて臨機応変に運営すること
3. サントリーのアセット×デジタルを自分ごととして考え体験設計をすること
今回ギブリーに研修実施をご依頼いただきましたが、弊社が担当する前の研修においては何かここに至るような課題感というのがあったのでしょうか?
服部氏:ご指摘いただいた通り、過去の研修内容では自発性を十分に促せていなかった点が課題でした。座学中心で、アクティブラーニングや実践を通じた学びにはなっておらず、インプットとアウトプットを繰り返しながら実践知に変えていく要素が不足していたことが大きかったかと思います。
森:そうですよね。私たちのギブリーの研修は、実践を重視したスタイルで、学びを通じて「魚の釣り方を教える」ような内容です。サントリー様の求めるスタイルとも一致したのではないかと感じております。
新人ケアについては、Track上での日報提出機能を通じて、1日の振り返りを行える仕組みも導入しました。懸念がある受講生には即座に対応し、日報のコメント機能を活用して、研修生とメンターが毎日コミュニケーションを取れるようにいたしました。今年からのこの新しい取り組みによる効果はいかがでしたでしょうか?
服部氏:そうですね、この機能を取り入れていただいたおかげで非常に助かりました。特にデジタルの初期スキルにばらつきがあったため、下のレベルの受講生がついてこれない場合にも、日報で早期にキャッチアップでき、ギブリーさんや事務局での情報共有をスムーズに行わせていただきました。その結果、必要に応じて補講セッションを設けることで、スキルやマインドの面で脱落者を出さずに済みました。また、新人には現場のメンターが付き、コメント機能を活用したメンターとの毎日のコミュニケーションを通じて、現場OJTへのスムーズな移行にも役立ちました。中には日々のやり取りを通じてユニークなコメントを出してくれる新人もいて、コミュニケーションの一端としても非常に良い効果をもたらしたと思います。
森:ありがとうございます。今年度の取り組みの変更点として、2023年度から2024年度にかけて、いくつかの新しい試みを導入しました。
まず1点目として、スキルアセスメントの再設計を行いました。これは、さらにレベルの高い人財を採用し、研修をよりハイレベルな内容に対応させるためです。
2点目として、より実践的なチーム開発への強化を行いました。昨年度の研修では、自立的に学ぶ一方で、専門分野やスキルに偏りが出てしまうという課題がありました。例えば、デザインや発表準備に重きを置き、コーディングの実践から遠ざかる受講者もいました。今年度は、コーディング業務からの距離を縮めるためにモブプログラミングを導入し、全員がコーディングを実践する場を設けました。また、GitHubといった現場で使われているツールの知識も取り入れることで、実際の業務に近い形でのスキル習得を図っています。
さらに講師体制の強化も行いました。昨年度は1人の講師が約20名を担当していましたが、今年度はサブ講師を追加し、2名体制で各受講生の多様なニーズに応えられるよう変更しました。
研修は毎年改善を重ねていますが、今年はこうした部分にフォーカスした背景について、服部さんにもコメントをいただければと思います。
服部氏:はい。改善実施の背景として、今年度は新入社員のスキルレベルに大きな差が生まれたため、上位層と下位層の両方に対応できるようなカリキュラムを設計したいという思いがありました。下位層に合わせてしまうと物足りなくなり、逆に上位層に合わせると難しすぎてしまうため、それぞれに対応できるよう、まずはアセスメントを強化し、個々のスキルを把握しました。それに基づいてカリキュラムを設計しています。
また、森さんのお話にもありましたが、一部の受講生が「この分野には興味がない」とコーディングから距離を置いてしまうことも昨年度は見られました。今年度はデジタル人財として必須となるスキルレベルを改めて定め、その基準を全員が達成できるようカリキュラムを設計しています。特に、難しいと感じていることがわかった受講生にはサポートを行い、全員が一定のスキルを持って現場に送り出せるようになったと感じています。
森:ありがとうございます。ここまでで、自立的な学びや新人の状況に合わせたケアの重要性についてお話しいただきましたが、サントリーさんの研修には他社の研修にはあまり見られない特徴として、「リアルアセット」を考慮した独自の研修設計が取り入れられています。
服部氏:こちらが今年度の研修スケジュールです。まず最初に、オンボーディングワークを通じてIT業界の基礎知識を広く学び、併せて自社への理解を深めていただくところからスタートします。その後、ITリテラシーやプログラミングの基礎知識を習得し、最終的にはアイディアソンで顧客課題を発見し、ハッカソンで発見した課題の解決策を形にしていく、という流れが特徴となっています。
また、並行してマーケティング研修も行っており、実際のユーザーを想定したユーザーインタビューなどを実施し、その内容をアイディアソンやハッカソンで落とし込むことで、リアルアセットへの意識をデジタルの取り組みに結びつけるためのカリキュラムを提供しています。
森:このような研修設計を行った背景について、再度お伺いしてもよろしいでしょうか?
服部氏:まずデジタルを通じて、企業全体として社会に豊かさを届けることが私たちの目指すところですが、新人社員には、自身がどの部門でどのような意義ある役割を果たしていくのかをしっかり理解してほしいという思いがありました。昨年来、ギブリーさんのご支援をいただきながら、今年は追加して、データを通じて顧客体験を高度化していくというサントリーのデジタル推進のあり方について、企業文化やDNAを理解してもらうためのセッションも組み込まれています。これにより、UIやUXといった言葉が一般化する前から積み重ねてきたサントリーのUI/UXの考え方についても深く理解し、サントリーのデジタル戦略の基盤となる価値観を受け継いでほしいと考えました。
森:実際、ユーザーインタビューでは、インタビュー用のスクリプトを新人社員自ら作成し、それを基にヒアリングを行うことがカリキュラムに含まれている点が、非常に大きな特徴でした。
また、今年の最終テーマとしては、サントリーグループ様が提供するWebサービス「COMADO」における新機能の企画立案を行う、というものでした。新入社員が現場配属後、すぐに新機能の企画を任される機会は多くないと思いますが、そうした中でこのようなワークを導入した理由についてお伺いできますか?
服部氏:実際にはいきなりプロダクトマネージャーとして全てを任せるわけではありません。しかし、サントリーでは入社1年目からデジタルサービスのプロジェクトに参加し、機能の責任を持って担当することが求められるため、こうした疑似体験を通じて、実際のOJTにスムーズに入ってもらいたいという狙いがありました。
森:なるほど。完成した製品や企画の成果物を拝見すると、今年も非常に面白いものが多く生まれたと感じます。こうした研修も2年目となりますが、導入前との比較、または昨年と今年を比べた際に、成果物のクオリティや発表内容について、服部さんはどのように感じていますか?
服部氏:昨年の成果物でもすでに高評価を得ておりましたが、今年はさらにレベルアップしたと感じております。昨年はスクリーンショットやパワーポイント上のイメージで終わるチームもありましたが、今年は全員が実際に動作するものを作り上げてきました。講師の方も『企画の趣旨が伝われば、パワーポイントでの説明だけでも構わない』と話していたのですが、全員が動くものを提供してくれた点に成長やレベルの向上を感じました。また、現場の社員からも昨年同様、高評価のコメントをいただき、成長やレベルアップが確かに感じられました。
森:ありがとうございます。他にも、研修直後だけではなく、実際に配属後数ヶ月が経過した後のフォローアップ調査も行われているかと思いますが、今年の結果についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
服部氏:やはりOJTにスムーズに入っていけることを重視しているので、現場の皆様がどのように受け止めているかや、新人たちの声をきちんと把握することが重要だと考えています。そこで、配属から約4ヶ月後に毎年アンケートを実施しています。昨年と今年の結果を見ると、知識やスキルのベースがしっかりと身についていることが確認でき、受講者の7割以上が満足していると回答しています。その結果、OJTにもスムーズに移行でき、レベル感の違いにも関わらず、上位層、下位層ともに満足できる設計ができていたと感じています。定量的なデータはまだ示せていませんが、現場の社員や事務局の感覚として、今年は昨年よりもさらに成果が上がっていると実感しています。
森:ありがとうございます。それでは、今後の課題点についてお伺いします。
服部氏:課題についてはいくつかあります。例えば、今年は全員が求められたスコアに達することができなかったため、全体の質をもっと高めるための設計が必要だと感じています。また、研修の前半での動機づけが不十分だったのではないかと考えています。研修チームや会社が何を求めているか、現場でどのようなレベルが求められているかをもっと早い段階でしっかりと腹落ちさせていれば、学習に対する集中力も高まり、学習の取捨選択の質も向上したのではないかと思っています。全体としてのレベルアップを図るために、来年は動機づけやモチベーション維持の仕組みを強化したいと考えています。
森:ありがとうございます。