2023.12.05

KDDIアジャイル開発センターのエンジニアと、ギブリーが語る!
生成AI時代に「エンジニア育成」はどう変わるか

■Speaker 情報


KDDIアジャイル開発センター株式会社
開発3部 エンジニア
横瀬 広明
KDDIの運用部門を経て、2017年よりエンジニアとしてau HOME関連サービス、法人向けサービス販売サイト等の開発に従事。 新規サービス立ち上げにおけるアーキテクチャ設計支援や新人向けソフトウェア開発研修の運営にも携わる。

KDDIアジャイル開発センター株式会社
開発1部 エキスパート エンジニア
岸田 正吉
OA機器メーカーのソフトウェアエンジニアを経て2018年にKDDIに入社。
金融、小売、製造、建設など幅広い業界/業種の法人顧客のDX事業立ち上げやアジャイル内製開発チーム立ち上げ支援に従事。

株式会社ギブリー
カスタマーサクセスマネージャー ※現:執行役員
森 康真
北海道大学工学部情報工学科 卒業、同大学院情報科学研究科修士課程 修了。 SAPジャパン株式会社にて人事コンサルタント、株式会社野村総合研究所にて、アプリケーションエンジニアを経験。 株式会社ワークスアプリケーションズでは採用担当として数々のプロジェクトに関わり、 特にエンジニア採用リーダーとして先進的な採用手法を確立する。 19年3月より株式会社ギブリーに参画。これまでのエンジニア/人事/コンサル経験を生かし、カスタマーサクセスチームマネージャーおよび研修講師として業務に当たる。

■Moderator 情報


株式会社ギブリー
執行役員 兼 HR Tech部門 事業推進部長
山根 淳平
2012年より株式会社ギブリーに参画、エンジニア向けHRテクノロジー事業の立ち上げを行う。ハッカソンやアイデアソン、プログラミングコンテストなど新しいエンジニア採用施策を取り入れ、年間100社以上のIT・通信・メーカー企業のエンジニア採用・育成を支援。2017年に同社の執行役員に就任し、現在はセールスからマーケティングチームの統括を担う。

■イベント概要


昨年OpenAI社が公開したChatGPTは、その革新的な性能から世界的な注目を集めました。生成系AIの効果的な活用方法と並んで、AIによるコードの自動生成の実現により、エンジニアの働き方や育成がどのように変化するのかが重要視されています。

これからのエンジニア育成においては、育成対象者の育成時期、スキルレベルによって育成方法を最適化し、大規模言語モデルの能力を最大限に生かした学習方法を模索していく必要性があります。

今回は「生成AI時代にエンジニアの育成はどう変わるのか」をテーマとして、業界に先駆けて生成系AIを活用したエンジニア育成を行った、KDDIアジャイル開発センター株式会社と株式会社ギブリーが登壇し、新たな時代の流れの中でエンジニアがどのように変化していくべきかを語ります。

■ギブリーによる今後のエンジニア育成について


山根:「生成AI時代にエンジニアはどう変わるのか」というテーマで各社の事例のご紹介を進めさせていただけたらと思います。 はじめに、森さんお願いします。

:株式会社ギブリーの森と申します。生成AI時代の人材育成支援ということで、「私たちギブリーがどのような取り組みをしてるのか」というお話しをさせていただき、加えて生成AIの現状についてもお伝えしていきたいと思います。

この分野については、日々の進化が目覚ましく、特にChatGPTのような大規模言語モデルが注目されています。これらはテキスト生成だけでなく、画像や音声生成にも応用されています。そのような状況下において、弊社の今後のエンジニア育成について話していこうと思います。

AI時代におけるエンジニア育成は変化しています。これまでのエンジニアはソフトウェア開発に集中し、顧客ニーズを満たしてきました。しかし、AIの普及により、エンジニアの働き方が大きく変わりつつあります。具体的には、AIを活用したソフトウェア開発や、ChatGPTの組み込みが重要になっています。



また、「プロンプトエンジニアリング」のスキルが特に重要視されている状況でもあります。AIエンジニアの割合は全体的に少ないものの、彼らの役割は大規模な言語モデルのファインチューニングに移行しています。AI時代では、エンジニアは顧客課題の発見やAIの指示出し、複雑なコーディングや連結テストなど、従来、人力で行っていた作業のシフトが必要となってきています。

さらに、コミュニケーション、ビジネスドメイン知識、AI活用力、アーキテクト力、コーディングセンスなどのスキルが今後一層求められると思います。プログラミング業務が不要になるわけではなく、「大規模言語モデルからの良い結果を引き出す仕事」が増えると考えられます。プロンプトエンジニアリングはこのような変化の中で重要なスキルとなります。

このような状況下では、AIに適切な質問をする能力が必要であるため、弊社においては、質問の仕方やコンテキスト理解の重要性を教えております。AIはまだ完全にはコンテキストを解釈できないため、複雑な課題は人間が対応する必要があります。そのため、プロンプトエンジニアリングの技術が重要で、自然言語を用いるAIとの対話においては、「質問力や論理的思考」が求められます。

我々はこの分野に早期から注目し、国際的なAI研究者からのガイドを弊社取締役の新田がいち早く日本に導入しました。そのガイドに基づき、研修カリキュラムを通じて、AIと効果的に対話するための技術を提供しています。

まず、プロンプトエンジニアリングのテクニックを様々学ぶ入門講座を1日行い、それを実際にどのように実務に活かしていくかという、私たちの内部の言葉で「Learning sprint」と呼んでいるカリキュラムを実施するイベントを行っています。

それをベースにハッカソンを行い、実際に成果物を作ってみようという形式や、本格的に利用していただくための継続的な支援を育成カリキュラムの体系として作っています。



:ここで質問をいただいていますので、回答します。

「AIを使いこなすには質問力が大事とのことですが、質問力が低い、質問が下手な新人に共通点はあるでしょうか。」ということですが、共通点は二つあります。

一つは、先ほど申し上げた質問力、論理的思考能力が弱いというところがあります。そして二つ目は、このようなプロンプトにおけるテクニックを知らないというのもあります。

そのため、質問力、論理的思考能力とプロンプトのテクニックが備わっていれば、基本的に新人であっても、AIと会話していくことができるという風に認識しています。

私たちが持っている「Track Training」というオンライン学習環境のLMS(Learning Management system)があります。そちらのLMSの中に、ChatGPTを組み込んだAIアシスタント機能をリリースしております。

学習教材の中の「ここが分からない」というところに対して、その場でAIアシスタントに聞くことができる機能を組み込んでおります。このAIアシスタントも、私たちの知見を元にカスタマイズしており、ティーチングアドバイザーとして振る舞うような指示を出しています。

すぐ答えを教えられたら学びにならないので、「答えをすぐ教えないで」という指示をしています。質問者が自分で理解し、自己解決ができるように、ティーチングとコーチングしてくださいという指示をChatGPTに出しており、それをベースに適切な返答をしています。

このような仕組みを用意することで、わからないことでも、より効率的に学ぶことができ、さらに良い質問の仕方を身につけることを想定しています。

山根:森さん、ありがとうございます。

■エンジニア育成とAIチューター活用事例 【KDDIアジャイル開発センター 横瀬氏】


山根:続いて、KDDIアジャイル開発センターの横瀬さん、お願いします。

横瀬氏:KDDIアジャイル開発センターの横瀬です。本日は、エンジニア育成とソフトウェア開発研修について、弊社の紹介とAIチューター、生成AIの活用事例とともにご紹介します。

弊社はKDDIアジャイル開発センター株式会社で、10年前からアジャイル開発に注力しているエンジニア集団です。社員は140名弱で、そのうち80%がエンジニアです。主にDXサポートを行っており、アジャイル開発にも関わっています。

事例として、「auでんき」のアプリ開発、「au price」のソフトウェアサポート、法人向けコミュニケーションツールやVR、ARサービスの開発などがあります。また、地域共創やワーケーションにも注目し、専用サービスを提供しています。

本日はエンジニア育成というコンテクストでのお話になりますので、当社でどのような教育をしているかについてお話しさせていただこうと思います。



新卒の社員が入社した場合、新卒社員は集合研修を受けた後、実案件のチームに入りOJTでスキルアップするという流れです。私が最初に話すのは、この前半の「集合研修」の部分で、後半は、岸田の方から、「実案件に入った後チーム開発でどう活用しているか」みたいなところを話せればと思います。

研修は毎年新入社員向けに行っておりまして、2ヶ月間でプログラミングの基礎やUXデザインを学び、実際にサービスを開発します。受講生は仮想の顧客のイメージを元にサービスを考え、実際に作成します。

研修の中で、受講生6名に対して社員のエンジニア2名がチューターとしてサポートしてもらっていますが、チューターの効率的な稼働が長年の課題でした。また、現在、ソフトウェア開発における生成AIの活用が一般的になっているため、それを前提にスキルアップする必要があります。

これらの課題に対処するために、AIチューターの「Hono」というチャットボットを導入しました。

これはDiscordを使用し、主に技術面の質問に対話的に回答してくれるものです。チーム単位での研修に対応し、チーム内での質問と回答を全員が見ることができるようになっています。また、研修に特化した質問内容にも対応しています。例えば「懇親会はどこで開催されますか」といった質問にも答えられます。



AIチューター「Hono」の技術的側面について説明します。内部ではOpenAIのAPIを使用し、無料版のChatGPTと同じGPT-3.5を利用しています。開発はAWSのコンテナとTypeScriptを使用し、チューターとして振る舞うようにプロンプトを設定しています。

研修情報を含む特有の情報を入力しており、開発期間は約1週間でした。また、キャラクター付けを意識し、カジュアルな回答と絵文字の使用で親しみやすくしています。

次に研修を受けた人の感想についてお話しします。

まず、最初の課題として挙げていた、チューターの稼働を効率化したいという点について、このHonoが大体1000回程度のやり取りをし、そのうちの3分の1程度はHonoが解決してくれました。

また、利用した人のうち8割が役に立ったと回答しており、これに伴って、人間のチューター側も稼働が肩代わりされたと体感していました。

第二の点、生成AIの活用スキルの向上では、直接この部分を定量的には図れてはいないものの、実際生成AIを初めて触った人からは「こんなにすごかったんですね」という認識を持ってもらう機会を提供できたと思います。

受講生50名のうち3分の2が1週間に数回以上使用し、人間のチューターに頼らずにAIだけで解決したケースも多くありました。ChatGPTを利用して、我々が事前に想定していたよりも多くの問題をAIが受け止めていたと思います。

アンケートのフィードバックでは、AIチューターに対して時間やマナーを気にせず質問できる点がポジティブに受け止められていました。これは初学者の不安を解消する手段として有効だと思います。また、ChatGPTを使って履歴が残るため、チームメンバーや人間のチューターがそのやり取りを見ることで、コミュニケーションやサポートに役立ったようです。

まとめると、AIチューターの使用により、人間のチューターの稼働を効率化し、生成AIの使用とスキル向上に寄与できました。今後は利用されたログを詳細に分析したり、GPT-4のAPIを使用して回答の精度を高めたりする予定です。

これで私からの説明は終了し、次に岸田がチーム開発について説明します。



■アジャイル開発とGithub Copilotを活用したチーム開発の進化 【KDDIアジャイル開発センター 岸田氏】


岸田氏:弊社は様々なアプリケーションやサービスの開発を行っており、技術的にはネイティブアプリ、ウェブアプリ、IoTサービスなど幅広く取り組んでいます。そのため、研修を終えたエンジニアもチームに参加後、学び続け、成長する必要があります。

開発プロセスとしては、スクラムフレームワークをメインに採用しており、チームの体制は通常5〜9名で構成され、その中に複数のエンジニアがいます。

開発スタイルには、特に「モブプログラミング」や「ペアプログラミング」を取り入れています。モブプログラミングは3人以上が1台のマシンで共同プログラミングを行う方式です。ペアプログラミングは、2人が1台のマシンで共同プログラミングを行う方式です。



この手法を採用するメリットとしては、まず属人化を避けることが挙げられます。複数人で共同作業を行うことで、1人にスキルが偏ることを是正し、タスクが1人に集中するのを避けられます。また、あるメンバーが急遽休む必要があった場合でも、チームの他のメンバーがサポートし、開発を継続的に行うことができます。これによりチームの稼働が安定します。

また、コードレビューや品質面でのメリットもあります。モブプログラミングにより、開発の文脈がチーム内で共有されるため、コードレビューにかかる時間を短縮でき、効率的な開発が可能となります。

そして、技術力の向上も重要なメリットです。チームとして共同作業を行うことで、プログラミングだけでなく、技術調査や試行錯誤のプロセスも共有され、重要な情報となります。

最後に、このような手法は、チームの一体感を高める効果もあり、特にリモートワークが主流の現代において、チームビルディングやオンボーディングの面で効果的だと考えています。



次に、生成AIの導入とその効果について説明します。我々が主に活用しているのは、GitHub Copilotです。これはGitHub社とOpenAI社が共同開発したコード補完ツールで、コメントを書いたり、コードの一部を書いたりすると、それに基づいてコードの提案をしてくれます。このツールを使うことで、開発の効率化と質の向上が期待されます。

また、GitHub Copilotにはチャット機能もあり、書かれたコードに対して解説を求めることができます。これにより、コードの目的や行動が瞬時に理解できます。

Github Copilot導入の効果として、まず生産性の向上があります。高度なコード補完機能により、開発作業が効率化されます。また、参考サイトや過去のソースコードを参照する作業が軽減されます。

さらに、開発コスト削減も重要なメリットで、開発スピードの向上によりリリースまでの時間が短縮され、コードレビューやテストなどの品質向上活動により時間を割けるようになります。実際に、GitHubから取得したデータによると、提案されたコードのうち約30%がそのまま受け入れられています。これは生産性が大幅に向上していることを示しています。

ただ、デメリットとしては、セキュリティ、脆弱性、著作権の問題、そして必ずしも正しいコードを生成しないことがあります。これに対しては、適切な判断をしながら導入する必要があります。



Github Copilotの導入により、従来のモブプログラミングやペアプログラミングを行っていたチームが、状況に応じてソロでの開発を選択する場合もあります。Github Copilotはソロ作業のサポートや、ペアプログラミングでの「もう一人の仲間」としての役割を果たすことができます。

利用者の声を集めた結果、GitHub Copilotによって定型的なコーディング作業が大幅に減少し、ナビゲーターやドライバーの負担が軽減され、特に、コーディング中のコミュニケーションが増え、より設計やアーキテクチャの議論に時間を割けるようになり、品質の高いプログラミングが可能になりました。

最後にまとめですが、生成AIは、生産性を著しく向上させる技術っていうのは明らかで、チームや組織にノウハウを溜めて積極的に活用した企業が、勝ち残っていくんだろうという状況だと思ってます。

使うリスクよりも、使わないリスクの方が高くなるのじゃないかなと思っておりますので、積極的に活用をおすすめします。

ありがとうございました。

山根:岸田さん、ありがとうございます。

■質疑応答


山根:「Github Copilotを使用した場合は、利用しなかった場合と比べてどれほど工数削減に繋がっているのでしょうか。」との質問をいただいております。

岸田氏:データの限りでは、3割のコードが即時に反映されているという「フルアクセプト」の形でデータが取れています。そのため、工数削減の指標としてどういう基準を採用すると妥当なのかは取れていませんが、工数削減された分だけ、品質向上の活動や別の活動にシフトしているので、より品質の高いコードになっているとは思います。

データが取れていないので、削減率何パーセントという出し方はできませんが、そういったデータとして出せるように色々揃っていくといいなと思っています。

山根:「テレワーク主体になったという話もありましたが、モブプログラミングはビデオ会議システムを使って有効に機能してますでしょうか。」という質問をいただいておりますが、いかがでしょうか。

岸田氏:私のチームは常に、Discordを使いながら、音声を主体にやっておりまして、コードを書く場合は、VSCodeのライブシェアという機能を使っていまして、ビデオ会議は基本的には使ってないです。Discordで開発する際には、音声をずっと繋いだまま、その場にいるような感覚でコードを書いています。

山根:ありがとうございます。最後に、「生成AI活用のデメリットとしてあった著作権などへの対策は何かございますか。」との質問をいただいています。

横瀬氏:私が知ってる範囲では、既存で公開されてるコードと一致するものをできるだけ提案しないようにするオプションがあり、そのようなものを会社のアカウントとして有効にし、リスクを低減しているのはあるかなと思います。

:研修カリキュラムの方でも、著作権とか倫理周りに関しては、そういった視点も持って扱うように教材の中に組み込んで、これから学ぶ人には情報発信をしております。

山根:ありがとうございます。では、セミナーは以上で終了させていただきます。みなさまありがとうございました!

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  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

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