2023.11.30

ベネッセDX室長・ゆめみ代表に聞く強いデジタル組織作りのステップとスキルマップの重要性

■Speaker 情報

株式会社ベネッセコーポレーション
Digital Innovation Parters
DX戦略室 室長
塩野 健一 様
慶應義塾大学経済学部卒。 2008年に株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し社内SEからキャリアを始める。 2014年テンプグループ(現パーソルグループ)との統合を機にホールディングスへ転籍し、「パーソル」へのブランド変革期に経営企画やブランドコミュニケーション、新規事業立ち上げなどを経験。 その後教育系ベンチャー企業で事業責任者を務めたのち、2022年株式会社ベネッセコーポレーションに入社。現在はベネッセグループ全体のDX推進部門にて戦略立案、推進を担当。

株式会社ゆめみ
代表取締役
片岡 俊行 様
2000年1月、株式会社ゆめみ設立。1000万人規模のモバイルコミュニティ・モバイルECサービスを成功させる。 また、大手企業向けのデジタルマーケティングの立ち上げ支援を行い、共創型で関わったサービスの規模は5000万人規模を誇り、デジタル変革(DX)支援を行うリーディングカンパニーとしてゆめみグループを成長させた。

株式会社ギブリー
取締役 兼 Trackプロダクトオーナー
新田 章太
2012年3月に筑波大学理工学群社会工学類経営工学専攻卒業。 学生インターンシップ時代に「エンジニア」領域に特化した支援事業を株式会社ギブリーにて立ち上げ、入社。 現在は取締役を務める。オンラインプログラミング学習・試験ツール等の自社サービスを立ち上げ、同社のHR tech部門を管掌。 また、日本最大規模の学生ハックイベント、JPHACKSの組織委員会幹事を務めるなど、若い世代のイノベーターの発掘・支援にも取り組んでいる。

■イベント概要

テクノロジーの進化が働き方を変え、企業のDX推進に必要なスキルも変わりつつあります。この変化を理解し、適切な人材育成と採用計画を立てることが、強固なデジタル組織を作るための鍵となります。本イベントでは、デジタルイノベーションパートナーを設立し、デジタル人材育成に取り組む「ベネッセコーポレーション」と、職位ガイドラインを用いてキャリアパス構築を支援する「ゆめみ」が、エンジニア組織に必要なスキルギャップの可視化から始めるデジタル組織の強化方法について語ります。DX推進やデジタル組織推進に関心がある方、エンジニアのスキルギャップを可視化したい方におすすめのイベントです。

■DX推進における組織づくりとスキル定義の重要性



新田:まず、今回のセミナーでは、業界全体の背景とスキルの定義の重要性について簡単にお話ししていければと思います。特に、強い組織作りとスキルマップの定義の重要性に焦点を当てます。

皆さんDXを推進していきたいと思いますが、DX推進に必要な人材は、量も質も足りていないというデータがあります。その人材不足を補うための取り組みとして、日本の企業では社内の人材育成が最も多く、既存の人材の活用や外部の人材採用にも力を入れていれている状況です。

しかし、DX推進に必要な人物像を定義できていないと、どのような人材を採用すべきか、育てるべきかがわからないという問題があります。この点については、米国と比較しても日本が遅れているという状況です。

また、スキルを評価基準として定めることも重要で、その設定ができていない企業が90パーセント近くに上るという状況にあります。

そのような状況の中で、経済産業省はビジネスパーソンやDX推進人材に求められるリテラシーやスキルを定義するデジタルスキル標準を定めています。これを組織のDXビジョンや経営ビジョンに必要な人材要件を明確化する基準としてご活用いただきたいと思っています。

そして、その基準化をした上で、人材の確保や育成施策を行うべきです。このような背景から、DX組織を内製化し、強い組織を作るための第一歩は、人材の要件を明確にすることが重要ですよというところはご理解いただけたかなと思います。

以上が、私の背景説明となります。

■ベネッセの取り組み:スキルマップでDX人材を育成

新田:次に、具体的な事例を知りたいと思いますので、ベネッセの塩野さん、よろしくお願いします。

塩野氏:はい、ベネッセコーポレーションの塩野と申します。私たちの会社について説明したいと思います。ベネッセは子供向け教材の企業として知られていますが、実は介護施設の運営や社会人向けの学習プラットフォームも手がけています。2021年にはデジタルイノベーションパートナーズ(DIP)という組織を設立し、現在では約800名の組織に成長しています。

DIPの設立の背景には、ベネッセのサービスごとに縦割りの組織体系を取っていたこと、少子高齢化による人口動態の変化、生活のデジタルシフトなどがあります。特に、子供たちの学習環境がデジタル化していく中で、ベネッセもそれに対応していかなければならないという状況がありました。

そのため、デジタルの専門人材を中央集権の形にして、DIPを設立しました。DIPはベネッセのDXを強力に推進する役割を担っています。

今年の5月には、人口動態の変化に対応するために、ベネッセの利益構造も変えていくという中期経営計画を発表しました。その中で、DIPの存在がより重要になっていると感じています。



現在、DIPでは2つの大きな目標を掲げています。1つ目は「各事業フェーズに合わせたDXの推進」、2つ目は「組織全体におけるDX能力の向上」です。本日は、「組織づくり」がテーマですので、組織のDX能力のなかでも特に人材に焦点を当てて話を進めます。

人材開発においても課題はありますが、その一つが縦割りの組織体制です。縦割りの組織では、どの部署にどのレベルのデジタル人材がいるのか把握するのが難しいです。そこで、まず人材開発方針を設定し、どの部署にどのレベルの人材が必要で、現状どの程度満たされているのかを明らかにしました。

そして、不足している部分を埋めるための研修制度を設けました。これは、我々のサービスを伸ばすためには、事業理解が深い人材にデジタルの知識をつけてもらうことが重要だと考えているからです。

そのために、我々は主に、今から話すようなアクションを進めています。まず、職種の定義です。我々は7職種、12区分に分けて職種を定義しています。これは、ビジネススキル標準を参考にしつつ、社内のデジタル人材に合わせて作成しました。

例えば、ビジネスアーキテクトという職種は、我々の職種ではプロダクトマネージャーやBPRなどに該当します。しかし、担当している人や必要なスキルセットは異なるため、職種を分けました。

次に、スキルマップの作成についてお話しします。

まず、各区分ごとにスキルマップを作成しました。これは、ビジネススキル標準を原案にし、各区分の第一人者にヒアリングを行いながら作成しました。

例えば、プロダクトマネージャーの場合、UX設計、プロジェクトマネージメント、エンジニアリングなどの専門性が必要とされます。それぞれの項目について、ベネッセでの業務を進める上で必要なレベル感や観点を明確にしました。このスキルマップは、毎年最低1回は見直すようにしています。

スキルマップが定義できると、社内のデジタル人材がどの職種で、どのレベルの人材なのかを判定します。これは、アセスメントツールを使った評価と、情緒の評価を組み合わせて行います。そして、どの部署に何人配置できているのかを明らかにします。

また、各事業部でどの程度デジタル人材が必要なのかを明らかにし、必要な人数と現状の配置人数のギャップを見つけます。これを事業ごとに明らかにし、年に1回アップデートします。そして、そのギャップを埋めるための開発戦略を立てます。



■質疑応答

新田 :ありがとうございます。いくつかご質問をいただいています。「最初に派遣されたコンサルタントはデジタル素養があった方々だったのですか。プロパーなのか、中途なのか、その辺り気になります。」とのことですが、いかがでしょうか。

塩野氏:最初の数人はデジタル素養のあるプロパーを選抜していました。事業理解がないと勘所がわからないからです。その後、中途採用を始め、現在は大半が中途入社ですが、プロパーの割合を一定に保つことを大事にしています。

新田:なるほど、外部からコンサルティングがきたわけではなく、自社の人材を活用しているんですね。

塩野氏:はい、現場の人たちに受け入れてもらわないと何も始まらないという考えからです。

片岡氏:素養のある方がいらっしゃったんですね。

塩野氏:最初は数人だったので、現場の方々と信頼を構築しながら入り込むことに気を使いました。

新田:次に、「DIPと自社のHRの役割分担はどのようになっていますか。」と質問をいただいています。どうでしょうか。

塩野氏:DX人材の獲得や育成はDIPの人材開発チームが主体となって進めています。全社共通の施策はHRが進めています。重複する部分もありますが、それを超えるメリットがあると考えています。

片岡氏:DIPが主導しているんですね。

塩野氏:DX部分に関しては、DIPが完全に主導しています。

新田:採用要件や育成のゴール設計はできそうですが、評価や人事制度の中に入り込むのは大変ではなかったですか。

塩野氏:この部門の立ち上げは人事部から何人か入ってもらった形で行いましたので、リレーションは問題なく取れました。

新田:次は、アセスメントの設計について質問ですね。「資格取得や業務経験年数など、どのように定義や評価が行われているのでしょうか?」という質問をいただいています。

塩野氏:アセスメントは難しいですね。まだ完璧にはできていないと思いますが、まずは形を作ることが大事だと考えています。経験年数や資格取得などは一部の職種で考慮していますが、全てには適用していません。その点は、業務の第一人者の意見に依存しています。毎年少しずつブラッシュアップしていってるかなと思います。

新田:なるほど、ありがとうございます。人事制度はアジャイルな思想が反映されているのですね。

塩野氏:はい、まずは始めないと何も進まないと思っています。

新田:ありがとうございます。次に、「設立から何年経っているのか、そして手応えを感じ始めたのはいつからなのか」と質問をいただいています。

塩野氏:活動開始からは約3年経っています。手応えを感じたのは、2021年にDX銘柄に選ばれた時です。

新田:ありがとうございます。次に、リスキリング休暇について質問で、「通常の有休との違いは何ですか?」とのことです。こちらはいかがでしょうか?

塩野氏:リスキリング休暇は通常の有休と同じです。ただ、学びたいと思う人が隠れているかもしれません。その人のためですね。

新田:ありがとうございます。最後に、「サービスのデジタル化に向けて、社内の意識改革はどのように行われていましたか?」と質問をいただいています。

塩野氏:外部環境の変化によって、私たちのサービスが選ばれなくなる危機感から意識改革が必要となりました。社内でもデジタル化の重要性を発信していましたが、顧客の変化による危機感が大きかったと思います。

新田:なるほど、ビジネス的なインパクトとして変化が必要だと感じたのですね。

塩野氏:はい、危機感が大きかったです。

■ゆめみの人材戦略:企業独自の基準作りの重要性



新田:次は片岡様よりゆめみさんにおけるデジタル組織づくりの考え方とアプローチについてDX支援会社の視点からお話をいただければと思います。

片岡氏::はい、ありがとうございます。

私たちは10年以上、BnB2C(B and BtoC)という法人企業のお客様と共に共創型のビジネスを展開してきました。その中で、内製化支援だけでなく、採用や組織づくりの支援も行っています。

このサービスの背後には、開発支援だけでなく、採用や組織構築の支援も行っている点があります。良いプロダクトは良い組織から生まれるという考えのもと、強いデジタル組織の構築に努めています。その結果、今年はデジタルエクスペリエンスのアワードで6位を獲得することができました。

私たちは共創型のビジネスをしていると言いましたが、顧客に寄り添いながら事業を展開するためには、人材戦略と事業戦略が必要で、それぞれの企業独自の基準を作り上げることが重要です。

特に、デジタル業界では人材の流動性が高く、グローバルな能力標準も定義されています。その中で、私たちは業界標準を抑えつつ、独自の基準を作り上げ、事業を推進しています。

また、大企業がデジタル化を推進する過程で、どういう組織の変遷があるかというところで言いますと、事業部から推進組織への移行、そして再び事業部への戻りというステップがあります。

その過程を経ている東急さんの「Urban Hacks」というデジタル部門を例に挙げて説明します。



この組織は、業界標準の能力評価を行いつつ、ユニークな組織作りをしています。専任のマネージャーはいなく、全員がマネージメントの役割を分担しています。技術者の理想郷を作るという理念に共感したプロフェッショナルが集まり、優秀な人材が多く、定着率やエンゲージメントも高いです。実は、我々が組織作りのお手伝いをしています。

特徴としては、独自基準でメンバーを採用し、独自の人材要件として、マネージメントを自分たちでやるという形を取っています。前職で感じた負の部分を新しい組織ではなくし、役割として期待するところを独自に設定しています。

一方で、専門的なエンジニアは高いスキルを持っていますが、業界標準を設けているため、高い能力水準のものでも、さらにマネジメントの役割も期待しています。そのため、チャレンジングな人が集まり、素晴らしい組織が作られています。

ただ、背景としては、各事業部に入って支援するよりも、まずはデジタル推進組織に一気に新しいサービスを作るという立ち上げが必要だったので、単体で推進できる組織を作りました。現在は60名ぐらいの組織で、各事業部やグループ会社への支援に移行しています。

次に、ゆめみの組織について説明します。我々の事業では、支援事業者としての専門性が求められるため、業界標準に沿った能力を持つことが重要であり、採用優位を図るために職種を細分化しています。

例えば、生産性が高い「マイスターエンジニア」や「テックリード」などの職種を設け、それぞれに対応しています。これらの具体的な職員ガイドラインはオープンにしており、エンジニアだけでなく、プロジェクトマネージャーやデザイナーもオープンにしていますので、参考にしていただければと思います。



最後に、ベネッセさんの800名規模のデジタル組織について説明します。

ベネッセさんは800名という大規模なデジタル組織を運営しています。短期間で組織を拡大するためには、初めから人材要求を明確にし、等級制度を設けることが重要です。これは通常、組織が50年以上経ってから行うことですが、ベネッセさんは初めからこれを用意していました。これは本当に素晴らしいと思います。

また、ベネッセさんは独自の基準を持っています。既存のサービスや組織を前提とし、健全な変革の意識を持つこと。そして、自分自身でプロジェクトを推進し、結果を見ること。これらはデジタルイノベーションパートナーとして重要な要素です。組織全体でこのような独自基準を持つことは、重要なポイントを抑えるために必要です。

以上が、各組織の特徴と我々の事業についての説明です。

新田:片岡さん、お話ありがとうございました。

■「デジタル組織構築」を推進する上で重要なこと

新田:東急さんの事例は、最初にカルチャーやビジョンを明確に打ち出して、社員を巻き込んだことが成功の要因だと思ったのですが、御社の中でパートナー企業と協力して、ソフト面の強化に取り組んでいる事例はありますか?

片岡氏:東急さんのような、ビジョナリーなリーダーがゼロから組織を立ち上げて成功した例は稀有です。

ただ、そのような組織も、最初はリーダーのビジョンとリーダーシップがなければ成り立たないはずです。

その後、組織を大きくしていくためには、人材マネジメントや制度などのハード的な要素も重要ですが、やはり最初にリーダーを立てることが最も重要です。

新田:ありがとうございます。

DXに求められるスキル標準は、日本国内ではマインド面やリーダーシップが重視されていますが、海外ではテクノロジースキルが重視されていて、日本ではまず DX の必要性を理解し、推進するリーダーを育成することが重要ですかね?

片岡氏:そうですね。Urban HacksのVPoEの宮澤さんも会社から大きな裁量を持ってやっているので、会社からの支援も必要だと思います。

新田:ありがとうございます。またご質問いただいたので、こちらも取り上げておきます。重要な質問ですね。

標準的なスキルマップもありますが、塩野さんのお話では、独自の基準を作るという話でしたが、そのプロセスの一例が知りたいというところですね。

「外部の基準をそのまま持ち込もうとすると、納得感が得られません。現場視点とどう折り合いをつけるか」というところで、良いプロセスやアプローチはあったりしますか?

塩野氏:最初はスキルマップをそのまま現場に持ち込んだんですが、現場からは「全然現実感ない」と言われました。そこで、現場の意見をヒアリングして、スキルマップを現場に合わせて修正しました。

また、職種ごとにスキルマップがバラバラになるので、レベル感は人事担当者が確認し、入れるべき観点は、社内の詳しい人にヒアリングして決めました。

新田:ありがとうございました。最後に、完璧なものを作ろうとすると、現場とコンフリクトするため、パートナーシップで二人三脚で進めることが重要というお話でしたが、片岡さんの立場から、お客様との人間関係や組織作りで重要だと思う点はありますか?

片岡氏:ベネッセさんの場合は、組織のコンセプトからイノベーションをパートナーとして共創で実現していく観点があります。東急さんの場合は、DIPさんのように推進組織が主体となっています。

このように、企業によって異なると思いますが、いずれにしてもアジャイル組織のように少しずつ作っていくアプローチがマインドを変える接着剤の役割を果たしています。このマインドセットが伝わるようになっているのは、どの会社にとっても共通のアプローチとしてヒントになると思います。

硬直的なトップダウンのやり方では動かない組織が出来上がってしまいます。スパイラル的に自己習得できるアプローチは素晴らしいと思います。

新田:貴重なお話をいただきまして、誠にありがとうございました。

片岡氏:皆さん、ありがとうございました。

塩野氏:こちらこそ、ありがとうございました。

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  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

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