■Speaker 情報
Sansan株式会社
人事部
新卒採用グループ チームリーダー
伊東 敏(いとう さとし)氏
個人向け名刺アプリ「Eight」や、シェアNo.1の法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を提供するSansan株式会社。創業以来、成長を続けてきたサービスを運用していく上で高い技術力を持ったエンジニアは欠かせない存在です。そんなSansanの将来を担うエンジニア採用に関して、具体的にどのような取り組みがなされているのでしょうか。採用方針やプロセス、情報発信や課題解決などを新卒のエンジニア採用を担当する伊東敏氏に伺いました。
■エンジニア採用におけるターニングポイントは「採用倍増」のミッション
伊東氏が人事部に異動してくる以前は、Sansanにおける新卒のエンジニア採用に関して、明確に整備されているとは言い難い状況だったそうです。もともと人事経験がなかった伊東氏は、どのようにして新卒エンジニア採用のあり方を変革していったのでしょうか。
伊東氏:「2013年にSansanに新卒で入社し、そこからセールスを1年、インサイドセールスに10ヶ月ほど携わりました。そして2015年1月から人事部に配属されました。当時は新卒採用をメインに担当していたのですが、特別なアプローチはしておらず、プロセスも属人的でした。」
人事としての経験もなく、エンジニア採用に関する知識もほとんどない。しかもエンジニア採用に関して、ほとんど整備されていない状態で、伊東氏は何から着手したのでしょうか。
伊東氏:「人事部全体で4名ほど。人事部長と中途採用の責任者、新卒採用担当の私と社内制度の担当者です。つまり採用に関わるのは3名で、新卒採用に専任で関わるのは私ひとり。正直、戦略と呼べるものは固まっておらず、ひたすら自社の説明会を行っているような状況でした。そんな中、 プロダクトの価値を高めて次のステージへ挑戦していくため、“採用人数を倍増させる”という目標が決まったんです。自社に合った優秀な人を倍採用するのは今のやり方では難しいと思い、何か変化が必要だと感じました。でも、具体的なアイデアがある訳ではないので、まずは現状把握も兼ねて各エージェントが開催している逆求人のイベントに参加するところから始めました。」
ご自身でイベントに参加し現状把握されて、その次のアクションは何をされたのでしょうか?
伊東氏:「2016年10月に表参道ヒルズのスペースオーで学生に向けた説明会イベント「Sansan Recruit Event」を開催しました。それまでは、社内のイベントスペースに30名ほどの学生を集めて、代表の寺田がミッションへの想いなどを話したあと、社員が具体的な説明するといったよくある小規模な説明会を開いていました。このような説明会でSansanの価値観やプロダクトの意義について伝えることはできるのですが、これを続けるだけではスケールしないと感じ、思い切ってイベントのスタンスから変えたのが「Sansan Recruit Event」です。今振り返ると、これを境に社内の採用に対する意識が変わったと思いますね」
志望学生の集客には、大学への働きかけや求人メディアの活用などが考えられますが、どのような動きをされたのでしょうか?
伊東氏:「正直、この頃は具体的な活動は十分ではなかったですね。当時、私とアシスタントの2人しか新卒採用担当がいなかったので、手が回らなかったのが正直なところです。採用イベントに出るのが精一杯で、学校回りまではできませんでした。その後新卒採用担当が1人増えて、やっとスカウトサービスなど対応できるようになった感じです」
■社内の意識が変わり、エンジニア採用の体制が整いだしたが、まだまだ課題は多い
社内の採用に関する意識が変わり、採用担当メンバーも増え、ことエンジニアの採用に積極的に取り組める体制が整ったということですか?
伊東氏:「そうですね。今春入社した19年卒は、ビジネス職が9名、エンジニアが11名です。これまでの新卒採用の倍近い人数が入社してくれました。肌感としては、接触している学生の幅が広がり、弊社のステージが上がってきたという感覚はあります。その証拠に、採用競合となる企業が明らかに変わってきました。いわゆるテック系の学生に人気の企業とバッティングすることがかなり増えてきました。」
このように、一定の手応えはあったと伊東氏は語ります。
伊東氏:「採用プロセスにおいては、そもそも優秀な学生に十分に会えていないんじゃないかという仮説があったので、その改善に取り組みました。」
エンジニア志望の優秀な学生に出会う機会が増えたのは、人事部にリクルーターが増員され、エージェントのイベントに参加できる数が増えたからなのでしょうか。
伊東氏:「それだけではありません。募集のために使うメディア、サービスが増えたことや、ダイレクトリクルーティングの効果も大きいです。実際、19卒入社のエンジニアのうち約半数はダイレクトリクルーティングによるものでした。これまでしっかりと着手できていなかったダイレクトリクルーティングに、きちんと期間を設けて、KGIやKPIを設定して取り組めたことが成功要因の1つだったとも言えますね」
それでは、こうした人事部におけるエンジニア採用への意識改革を踏まえ、21卒ではどのような採用プロセスで進めていく予定なのでしょうか。
伊東氏:「まずサマーインターンがあります。その後、本選考が秋口ぐらいから始まって、面接を行って、内定が出始めるのが12月ぐらいからでしょうか。サマーインターンの集客は、本採用で使っているサービスや媒体とほとんど一緒ですね。エージェントのインターンイベントに参加して告知したり、Wantedly(ウォンテッドリー)やPaiza(パイザ)に情報を掲載して集客する予定です。Webアプリケーション開発、モバイル開発、研究開発など複数のサマーインターンを開催する準備を進めています。」
■辞退者からのヒアリングで、最大の「気づき」を得ることに
内定を辞退して他社に入社した学生に対するヒアリングを実施したと伺いました。
伊東氏:「2018年の夏頃ですかね、弊社の内定を辞退した学生数名にお願いして、ヒアリングを行いました。当時、私は新卒採用全体のマーケティング部分を担当していて学生たちと一定の距離があったので、声をかけるハードルはわりと低かったんです。「採用マーケの担当ですが、ちょっと話を聞かせてください」という感じで。「就職活動時にはお世話になったので、少しでもお役に立てれば」という学生も数多くいて、選考過程のCX(選考体験)が良かったからこそ、本音を話してくれたんじゃないかなと思っています。」
辞退者へのヒアリングで、Sansan以外の会社を選んだ理由として多かった意見には、どのようなものがあったのでしょうか。
伊東氏:「一番多かったのは、Sansanのミッションや理念にはとても共感できるが、他社に比べて、技術に対しての考え方や、自身の技術に対する評価がクリアになっていないという意見でした。ヒアリングしたほぼ全員同じような意見が出ました。これは一番の「気づき」でしたね。弊社は、あまりギークなエンジニアには向かないということを前回のイベント(AgileHR day #Sprint06)でお話しましたが、これは技術を大切にしていないということではなく、バランスの問題だと思っています。ある学生は、他社では一次選考で技術テスト、二次選考で技術に対する考え方や人間性についての面接があり、そのバランスが非常に良かったので決めたという話をしていました。もちろん私たちも、技術と人物、どちらも大事だと思っていますし、どちらかに優劣をつける問題でもないと考えていますが、振り返ってみるとたしかに技術に関するメッセージの発信が不足していたかもしれません」
こうした反省を踏まえ、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーといったSansanに所属するクリエイター達によるものづくりブログを開設。技術系の情報発信を始めたのです。
伊東氏:「2018年9月に弊社のCTO・藤倉成太の旗振りで『Sansan Builders Box』を開設しました。また、イベントでの登壇資料を『Speaker Deck』に集約するなど、Sansanのエンジニアがどんな想いをもってプロダクトに向き合っているのか、どんな技術を使っているのかをきちんと伝えられる場所を用意しました。これらの取り組みの目的は、ものづくりに関する情報発信を通じて、Sansanという会社やプロダクトへの信頼感を醸成していくことです。そのため、基本的に『Sansan Builders Box』ではエンジニアが発信したいことを自由に書いています。エンジニアが面白いと感じる情報を発信することが、巡り巡ってエンジニアの求職者にも届くと考えているので、特に採用を意識してブログを書くということはしていません。」
Sansanのものづくりブログ『Sansan Builders Box』
『Speaker Deck』
ただ、現場のエンジニアが一定の頻度でブログを更新するのは、なかなか大変なことに思えます。
伊東氏:「そこは我々も不安に思っていましたが、現在はだいたい週3日以上のペースで記事を発信できています。CTOの藤倉を編集長として編集部を設けたことで運営体制が担保されていること、そしてなぜブログをやるのかという意義が実際に記事を書くエンジニア達にも理解されていることが要因だと思います。これは人事部主導では絶対に回せなかったことです。面接の場でも、学生から「ブログを読んでいます」という声が増えてきました。着実に採用の場面でも効果はでてきていると思います」
■「技術をしっかり見る」スタンスを示すためにtrackを導入
エンジニアの新卒採用について、さまざまな取り組みを行ってきたSansan。「track」はどのような経緯で導入を決めたのでしょうか。
伊東氏:「trackは2018年11月ごろに導入しました。先ほどもお話ししましたが、辞退者へのヒアリングで学生の方に「技術を見ているという感覚が他社に比べて弱く、入社後にエンジニアとして、どうキャリアアップできるか不安になる」と言われたので、まずは技術を大切にしているということを伝えるためにtrackの導入を考えたのが最初のきっかけです。
また、少し前に新卒でハッカソンを企画した際にエントリーでコーディングテスト選考を開催しました。ただ、参加したが学生から「全て英語表示で大変でした」という声が聞かれ、学生に全て英語の環境下でコーディングテストを課すことで要らぬ辞退者が出してしまう可能性もあると思い、最低限国産のものが必要だと感じていました。そこで調べていたら、またtrackが出てきて、しかもギブリーさんも知っていたので、さっそく問い合わせをして、すぐやりましょうということになりました。社内でも採用でtrackを使うということを話したら、すんなり話が進みました。」
実際、trackを使うことで学生からの反応はどう変わったのでしょうか。
伊東氏:「まだ、大きく反応に差が出るところまで使い切れていませんが、面接の際にtrackの結果を見ながら会話することが明らかに増えました。社内では、ポジティブな声が多いですね。これまで学生が持ってきたシステムや、書いたコードを見たりしてきましたが、バラツキがあって判断が難しいところがありました。それを一定の基準の中で技術を見ながら、エンジニアとしての考え方を聞けるのはメリットが大きいです。学生からも、trackのコーディングテストがあるから辞退しますということはないですし、trackをやっているということで、技術を評価する会社であることを知ってもらえたらと思っています。
今後、Sansanはどのような新卒エンジニアを採用したいと考えていますか?
伊東氏:「Sansanでは、これまでの当たり前を変えるようなプロダクト作り・モノ作りに関わることができます。「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションにもあるように、出会いの可能性やあり方を重視していて、ビジネスに関するあらゆる出会いの概念を変えることで、イノベーションが生まれるということを目指しているのです。
エンジニアとして、技術力を磨いていこうとする向上心があることはもちろん、Sansanが目指している世界観に対して自分の成長やありたい姿を重ねることができるような学生に多く出会えればと思っています。」
ありがとうございました。
“技術を評価する会社”を印象づける為に、単に技術面の情報発信を増やすだけではなく、エンジニア自身が発信した情報こそがエンジニアに刺さるという、情報伝達の本質を大切にし、FACTとして新卒選考にスキルチェックツールの『track』も導入されているSansan社。
既存概念を変えることをミッションに掲げる同社が、今後どのような手法で情報発信していくかも楽しみです。
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