■Speaker 情報
Facebook(現:Meta社)
リクルーティングマネージャー
Austin Bonner 氏
■イベントレポート概要
多くの企業がDX化を試み、エンジニアの採用に積極的な企業が増え、エンジニア採用市場はますます難易度を極めています。戦力になる優秀な技術者を見極め、自社を選んでもらうかが企業の組織づくりの鍵を握りますが、そのノウハウを蓄えた日本企業は多くありません。本イベントでは、米facebook社にてテクニカルマネージャーとして最先端のリクルーティングチームを率いていらっしゃるAustin Bonner氏をお招きし、アメリカのエンジニア採用市場の現状と採用プロセス、エンジニア見極めのノウハウまでのお話を伺いました
■米国の採用市場トレンドと採用プロセスの自動化について
山根氏:米国におけるエンジニア採用の難易度は、どのように変化していますか?コロナによる影響はありましたか?
オースティン氏:ここ数年の米における技術系の採用競争競争に与えた大きな要因は、報酬・福利厚生、プロジェクトワーク、COVID-19の3つです。
1つめの大きな要因は報酬・福利厚生です。サンフランシスコ ベイエリアのシリコンバレーはもちろん、エンジニア界の優秀な頭脳が集まるシアトルやニューヨークシティなどでは、多くの企業が際立った報酬体系で人材獲得競争を勝ち抜いています。
2つめの要因は、人材獲得の主な原動力になりつつある「プロジェクトワーク」です。インパクトが強くやりがいのある難しい仕事は、優秀なエンジニアを強く惹き付ける。アメリカでは「従業員アウトリーチプログラム」などを通じて、この性質を最大化させます。リクルーターのメッセージに反応が無い候補者に対して、有名なエンジニアらが自らコンタクトを取るのです。優秀な候補者は日々大量のオファーメールを受け取っているので、ブランド力や知名度が少しでもあると、職務についてコミュニケーションがとれ、自社の印象を強めることに繋がります。
3つめのCOVID-19ですが、これが技術系人材の採用動向に影響を与えた一番の要因だと思います。これまで大都市圏に集中していた多く従業員は物価の高い都市を離れ、故郷の近くや、物価の低い地域に引っ越した人もいます。これを受け、多くの大手企業がリモートワーク制を導入し始めました。柔軟性のある方針転換は、出社勤務を望まない優秀な人材を採用する新たな戦略的手段になったと思います。
山根氏:ありがとうございます。次の話題となりますが、採用プロセスの自動化はどの程度進んでいますか?
オースティン氏:素晴らしい質問ですね。採用プロセスは、ますます自動化されています。私が採用現場で一番目にするのは「人材発掘のプロセスを自動化する取り組み」ですね。優秀な候補者がソーサーに提案されたり、おすすめされたりします。それから「候補者の再発見」というものがあります。転職活動をしていなかったため以前は検索にヒットしなかった人が、新しい仕事を探し始めたタイミングで再度、検索結果に表示されるというものです。
他には、リクルーターと候補者との面接のスケジューリングを自動化するツールや、技術力のオンライン審査を行うコーディングテストも活用します。面接の時間を大幅に短縮でき、候補者を効果的にランク付けするのに役立ちます。また、より高度な採用管理システムの場合、採用プロセス後半の段階に自動化を組み込むことができ、採用調査やオファーレター作成などを自動でやってくれます。採用プロセスの自動化はここ10年、このような進歩を遂げています。一日に何百もの履歴書に目を通すのではなく、戦略的で的を絞った取り組みです。
■候補者のスキルセット全体像を正しく把握するために、多数の面接を実施
山根氏:米国のエンジニア採用の典型的な面接プロセスを教えてください。
オースティン氏:私の経験上、エンジニア採用ではJava、Python、JavaScriptで簡単なアルゴリズム問題を、CoderPadを代表とするコーディングテストツールを活用して出題する「コーディング面接」や「問題解決面接」を実施します。その他には「行動面接」もあります。技術面が非常に優れているエンジニアでもトラブル解決やコミュニケーションに苦労していたり、隠し事のないオープンなフィードバックのやりとりが苦手だったりします。私たちFacebookは、エンジニアに高度なスキルだけでなく周りの人たちと協働できるか?を求めているので、行動面接での振る舞いを重視しています。
山根氏:アメリカは日本と比べて面接の回数が多い印象ですが、なぜ見極めに多くの時間をかけているのでしょうか?
オースティン氏:エンジニアの面接の場合、Facebookではスクリーニング面接と呼ばれるものから始めるのが一般的です。これは、採用側エンジニアが実施する45分間の技術審査です。プログラミング言語は当然その職種によって変わります。Facebookは、オブジェクト指向言語のJava、C++、Python などを好みますが、UIやフロントエンドに特化した職種では、特定JavaScriptライブラリなどの使用に移るかもしれません。それに、データエンジニアではSQLやPythonの可能性もあります。
この最初の選考で優秀な成績をおさめた候補者は、本面接に進むことができます。ここでは、一般的にコーディング面接がさらに2回と、システムに焦点を当てた技術面接がさらに1回行われます。ここではデータモデリングや分散システム、システムやデザインをエンドツーエンドで構築すること、ホワイトボードにワークフローを書いたり、プロダクトのテクニカルな点を説明したりする能力などが審査されます。
この面接の目的は、候補者が問題を解決する能力、柔軟な思考で素早く解決する能力をどのくらい有しているか審査することです。
■弱点をカバーできる従業員と組ませて、候補者や組織のパフォーマンスを最大化させる
オースティン氏:その次は、行動面接です。ここでは、協力して仕事できる能力を審査します。Facebookでは、候補者が仕事上の失敗を話せるかどうかを重視しています。失敗から学んだことを、人としてエンジニアとしてどのように活かせているのかを重視しているのです。「謙虚な態度」と「問題を自分のものとしてとらえる姿勢」、この2つが私たちが選考で重要視する資質です。
Facebookでは、フィードバックを大切にしています。特に多方向からのフィードバックです。マネージャーから部下に、部下からマネージャーになど、上下左右、公式・非公式問わずにたくさん行われています。私たちが求める人材は、気楽にフィードバックのやりとりができて、それがチームの成長やスキル向上に繋がることを知っている人です。
これらの面接の目的は候補者のスキルセットの全体像をできるかぎり把握することです。これが雇用責任者の意思決定の参考になります。例えばマイナス面を見て「この候補者は、技術面は優れているが対人関係に苦労している」、「フィードバックの受け取りに問題がある」、「問題が起こったときにすぐにエスカレーションしてしまう」などを考慮します。
弱点がわかったら、次は「その弱点を改善させられる人と組ませることができるか」を考えます。雇用責任者は慎重かつ戦略的に人材をオンボードする方法を考え抜いています。人材を組み合わせることでスキルセットを完璧にし、その職務で最大限の可能性を引き出すためです。
■評価が100点の候補者だけを採用する訳では無い。
山根氏:面接の中でスキルを見極めようとしているのか、単純にスクリーニング目的なのか、どちらになりますか?
オースティン氏:当然、候補者をふるいにかけて落としているわけですが、Facebookがやっているのは、イエスかノーかの二択の選考方法ではなくて、2つの要素を使うことです。「採用か不採用か」の要素とこの決定に対する「面接官の自信のレベル」を示す要素です。例えば、45分の面接で私が面接官であなたが候補者だとします。あなたがすべての質問にしっかり答え、素晴らしい例を挙げたら、その見事なパフォーマンスから、採用後も素晴らしい力を発揮するだろうと確信します。そして、自信を持って高い評価をします。
もちろん、面接中に起こった出来事によっては、自信のレベルは中や低にもなります。つまり、白か黒かの判断をしないという点で私たちはうまくやっています。候補者はイエスかノーかの2択ではなく、一定の範囲のなかでレベル別に評価されています。
採用業界全体にも言えますが、特にFacebookのような進歩的な企業では、リクルーターは雇用責任者や雇用を支援する部署に冒険してもらえるよう働きかけることに多くの時間を割いています。5つの要件のうち4つを満たした候補者がいて、たった1つの要件を欠いていた場合は、その人をオンボーディングするほうに力を入れるという手もあります。新しい候補者を探すのにも同じ時間がかかるなら、その人をオンボーディングして、コミュニケーションでも技術面でも、その欠点を克服するような研修をする手もあります。
多くのケースでは、非の打ちどころのない候補者を探すのではなく、よく練られたオンボーディングプランを作り候補者を育てる環境を作ると、規模を拡大した効果的な採用が可能になります。
■エンジニア未経験人事が「採用CX(候補者体験)」向上のためにできること
山根氏:エンジニア未経験の人事がエンジニア採用をする際に心掛けるべきことはなんですか?エンジニアにとっての「採用CX(候補者体験)」とは、どういうものだと思いますか?
オースティン氏:多くのエンジニアは、ミッションが何よりもモチベーションになります。プロダクトやプロジェクトに対する信念であったり、やりがいやエキサイティングな取り組みを求めています。ですが、魅力がわかりやすい仕事がすべてではないので、リクルーターとしては雇用責任者や雇用チームと行動をともにして、仕事で技術的に難しい部分を理解することが大切です。
私はいつも、ある雇用責任者の言葉を思い出します。Facebookで最初にサポートしたのは、「Enterprise Engineering」というグループで従業員向けのツールやプロダクトの開発をする部署でした。そこでは世界中のユーザーに向けてではなく、人事、会計、サプライチェーンのプロダクトやエンジニア用の社内開発ツールを作っていました。初めのうちは、このような取り組みの魅力を売り込むのはとても大変でした。ですが、チームと一緒に過ごしていく中で、メンバーから仕事の魅力を直接学ぶことができ、彼らの仕事を理解したうえで候補者に魅力を売り込めるようになりました。
このEnterprise Engineeringの雇用責任者が言いました。「ニュースフィードやWhatsAppのような製品に携わるチームにいたら、1つのボタンやウィジェットに6カ月間取り組むこともできる。ニュースフィードやWhatsAppは有名なので、その部署での仕事はたくさんの人に魅力的にうつるだろう。しかし、ここならはるかに複雑な社内用の製品を作ることもできる。ユーザー数は、25億人に対して3万人かもしれないが、チャレンジはずっと野心的で、全体を構成する個々のパーツを分解して説明すると、エンジニアをもっとワクワクさせられる。」
私がここで言いたいのは、人事担当として時間をかけて仕事をよく理解すれば、どんなこともターゲットのグループに売り込めるということです。人事担当としては、エンジニアのような深い知識は得られないかもしれませんが、候補者をワクワクさせられるだけのその仕事の魅力を理解できれば十分です。そして、チームの雇用責任者やエンジニアの力を借りて、採用プロセスのさまざまなチェックポイントで候補者に売り込みを続けていきます。
■「学歴」では無く「鋭い洞察力」で候補者を評価する面接プロセスを
山根氏:最後に、今後エンジニア採用をする日本の人事責任者の方々へ何かメッセージをお願いします。
オースティン氏:リクルーターのみなさんには、できるだけクリエイティブな候補者探しをおすすめします。しかしいい人材を見つけるだけでは不十分で、ブランド力・福利厚生制度・競争力のある報酬や自社プロダクトやミッションに対する強い信念が必要です。候補者体験について少しお話ししましたが、私なら候補者にとって忘れられない体験を作り出すにはどうすればいいかを考えます。同じような内定を2つか3つもらったら、候補者は「人としての価値を尊重してくれている」と感じさせてくれた企業を選ぶでしょう。候補者体験を重視すると、大企業のような報酬や福利厚生がなくても、競争上大きなメリットになります。
最後に人事担当の方々には、候補者が要件をほとんど満たしているならば、賭けに出てみることをおすすめします。アメリカで「パープル・ユニコーン」と呼ばれる「完璧な人材」を探すのは、大規模で実践できる戦略とは言えません。チームを成長させて、メンタリングやよく練られたオンボーディングに注力できれば、効果的に人材を採用でき、優れた候補者を素晴らしい従業員に変えていくことができます。
最後のアドバイスですが、ベストを尽くすことです。日本の比較的保守的な企業にとっては難しい点もあるかと思いますが、とにかくベストを尽くし、学歴に焦点を当てすぎないよう働きかけてみてください。Facebookで私が知っている最も成功しているエンジニアは、ハーバード、イェール、プリンストンといった有名大学ではなく、独学かあまり有名ではない学校の出身です。
ですから、面接プロセスに力を入れて、「学歴」の代わりに「鋭い洞察力」で候補者をランク付けすれば、採用工数を大幅に削減できて従業員の質もそれほど低下せずに済みます。
以上が日本の人事担当のみなさんに向けた私からお伝えできる1番のアドバイスです。