2023.09.29

研修前・研修中・研修後で重視することは異なる。新人エンジニアの能力を最大限引き出す「階層別研修」とは

■Speaker 情報

株式会社ギブリー
研修事業統括
森 康真

北海道大学工学部情報工学科卒業、同大学院情報科学研究科修士課程修了。SAPジャパン株式会社にて人事コンサルタント、株式会社野村総合研究所にて、アプリケーションエンジニアを経験。株式会社ワークスアプリケーションズでは採用担当として数々のプロジェクトに関わり、特にエンジニア採用リーダーとして先進的な採用手法を確立する。2019年3月より株式会社ギブリーに参画。これまでのエンジニア/人事/コンサル経験を生かし、カスタマーサクセスチームマネージャーおよび研修講師として業務に当たる。

■イベント概要

新年に向けて、4月に入社する新人エンジニア向けの研修計画について提案します。社内研修、外部委託研修など、その形は様々ですが、全ての企業が共通して目指しているのは「研修効果の最大化」。しかし、オンライン研修が主流となった現代では、新人一人ひとりに合わせた学習環境の提供が難しく、研修効果を最大化することができていないという声も少なくありません。そこで今回は、新人一人ひとりと向き合うための解決策、階層別研修の設計方法をはじめとして、レベル分けの観点や基準、階層ごとの研修運営ポイントなど、4月に入社する新人エンジニアの研修効果を最大化するためのヒントを紹介します。

■スキル差への対応が求められるエンジニア研修

まず、用語の解説から始めます。

「階層別研修」とは、新入社員や3年目、5年目、管理職などの階層ごとに、その階層で求められる業務要件に合わせた能力を身につけるための研修のことを指します。「選抜研修」とは、既にそのレベルを満たしている人をさらに上のステップに進めるための研修のことを言います。「職種別研修」とは、階層別研修の中でも、営業や企画などの職種ごとに専門的な教育を行う研修のことを指します。

通常、新入社員研修では、最初の2週間から1ヶ月は全体研修を行い、その後職種別に研修を行うのが一般的です。研修が終わったら、職種ごとに現場配属になる流れが多いです。

ただ、研修には課題があります。エンジニアの採用は、トップ層だけを取りに行く企業もありますが、大規模な採用をすると経験者だけでは難しくなります。年間で見ると、プログラミングを学んだ人は約2万人しかいませんが、それに対して雇用する側はその数倍の人を雇います。

そのため、未経験者を採用せざるを得ない状況になっています。エンジニアの能力差は他の職種よりも大きく、一律のカリキュラムを提供すると、経験者は退屈し、未経験者は難しく感じることがあります。また、全てのスキルを網羅するカリキュラムを提供するとコストが高くなります。

さらに、スキルに応じたグループ分けも問題となります。最近では、プログラミング教育が普及しているため、自己学習した人やハッカソンに参加した人など、様々なバックグラウンドを持つ人が増えています。そのため、これからは学歴や選考ベースでのグループ分けが難しくなると予想されます。

■「スキル階層別研修」がスキル差への対応に効果的

我々は、現在直面している課題に対して、スキル別の階層型研修が有効であると考えています。これは、役職や就業年数ではなく、個々のスキルに合わせてカリキュラムを最適化するというものです。スキルアセスメントの結果を基に、上級、中級、初級といったレベル感の人を想定し、それに基づいたカリキュラムを作成します。

具体的な運営方法としては、スキル階層でグループを完全に分ける方法と、同じグループ内で階層分けをする方法があります。

前者は、オフィスやオンラインで部屋を分け、完全に異なるカリキュラムを進めるもので、後者は、同じグループ内でスキルに応じた階層を作り、目指すべきレベルが異なる人々が同じクラスで学ぶものです。

どちらの方法を選ぶかは、採用人数やコストなどによります。このような運営を行うメリットとしては、スキルに応じたカリキュラムを作ることで、不必要な部分を削減しコストをカットできること、適切な難易度設定が可能となり、初心者は不安を感じず、上級者は退屈せずに学べることなどが挙げられます。

■スキルアセスメントは研修前・研修中・研修後で目的が異なる

階層別研修を行う際のスキルアセスメントのタイミングは、研修前、研修期間中、研修終了後の3つです。

入社前のアセスメントは新入社員のレベルを把握し、研修カリキュラムのカスタマイズや初期クラスの編成に役立てます。研修期間中のアセスメントは学習と習熟度のチェックを行い、理解度の確認やフォローの方法を見極めます。研修終了後のアセスメントは研修カリキュラム全体の効果を測定し、配属先の検討やレポート作成に活用します。

それぞれのフェーズでの目的が異なるため、問題の構成基準も変わります。次に、3つの目的に合わせた問題構成の手法を説明します。

■研修前ー 階層クラス編成、配属適性を判断する

まず、事前スキルアセスメントとして入社前や入社直後に行うテストについてです。クイズ形式だけでなく、実装形式の問題も入れることが重要です。クイズ形式は設計も解答も楽ですが、実装形式の問題を入れることで、実際のスキルをより正確に評価できます。

私の経験から、クイズ形式の問題は正規分布になりやすいですが、実装形式の問題はV字型の分布になることが多いです。これは、全くできないか、ある程度できるか、経験の有無を明確に見ることができるからです。そのため、事前スキルアセスメントには実装形式の問題を入れることが重要です。

クイズ形式の問題を出すのであれば、特定の領域を重点的に聞くよりも、各カテゴリーを全て網羅する方が良いです。例えば、基本情報技術者試験のように、各知識を満遍なく問う問題構成が良いと考えています。

実装問題では、実装経験の有無だけを問うなら、初級レベルのアルゴリズム問題を入れるだけで良いです。しかし、特定の技術領域の専門性を問いたい場合は、その領域の問題を任意問題として入れることが有効です。例えば、データサイエンス職の適性を見極めたい場合、統計解析の知識を求める問題を入れると良いでしょう。これらの問題は、配属先の検討にも役立ちます。以上が、入社前の事前スキルアセスメントについての説明です。

■研修中 ー 単元別の習熟度を計測する

次に、入社後の研修について話します。研修では毎日カリキュラムを消化していきますが、その際の問題構成はどうするかという話です。

まず、カリキュラムで単元別に達成すべきレベルを決めることがおすすめです。例えば、プログラミングの研修では、どこまでのレベルを目指すのかを具体的に定め、それに応じた問題設計を行います。初級はレベル5まで、中級はレベル8までといった具体的な目標を設定し、それを正しく理解しているかどうかをチェックします。

また、単元ごとに理解度を確認するために、穴埋め形式の問題も有効です。そして、週に1回や研修の折り返し地点など、適時に学んできた内容が全体として繋がっているかを確認します。そのためには、アルゴリズム問題を作り、それを実装できるかどうかを確認します。その際、取得演算やデータ型の理解、型変換、繰り返し処理など、総合的な理解が必要な問題を出題します。

しかし、毎日カリキュラムを詰め込むと、学習内容が点のまま終わってしまうことがあります。そのため、テスト前には復習時間を設け、点と点を面として繋げることが重要です。特に、自分自身の弱点を見極め、それに対する復習計画を作ることが効果的です。自分の弱点を3つ挙げて、それをどう解消するかを考えさせることで、自分で問題を解決する力を育てます。

このように、効果的な復習を行い、点と点を面で繋げ、総合的な問題で理解を深めることで、理解度レベルを上げることができます。これが、研修期間中に行う試験の一つの方法です。毎日の振り返りは、レベル定義を問う問題を出し、適時に総合的な知識を問う問題を出すことで、点と点を面で繋げるような設計を行うことが大切です。

■研修後 ー 研修効果測定を行う

時間軸を移動して、3つ目の事後スキルアセスメントについて説明します。これは研修全体を振り返り、その効果や学習効果を評価するフェーズです。事前スキルアセスメントの問題構成と同じ形式で行い、クイズ形式と実装形式を組み合わせます。

ただし、同じ問題を研修の前と後で出すのは避けるべきです。なぜなら、同じ問題を解くとスコアが必ず上がるからです。これは私が10数年間のデータから得た経験則で、人間は一度解いた問題に対しては脳が考えずに答えを選んでしまう傾向があります。そのため、同じ問題を出すとスコアが伸びてしまい、研修の効果測定には繋がらないのです。

そこで、同じ難易度の類題を出すことをおすすめします。類題とは、同じ平均値、同じ標準偏差、同じ得点分布を出す問題のことを指します。これらの問題は社内で蓄積されていくべきで、それを使って偏差値を作り、能力の伸びを検証することが重要です。

ただし、全ての問題を類題で出すのは大変なので、クイズ問題に関しては70%程度を共通問題とし、残り30%を類題にすると良いでしょう。これは多くの試験が採用している方法で、問題の品質を保つために有効です。

■まとめ

ここまでの話をまとめます。まず、エンジニア採用では経験者だけでは難しく、未経験者も採用する必要があるという話をしました。ただ研修をする際に一律のカリキュラムは経験者には退屈、未経験者には難しいと感じられ、全スキル網羅のカリキュラムはコストが高くなります。また、スキルに応じたグループ分けも問題で、これからは学歴や選考ベースでの分けが難しくなると予想されます。

私たちはそれに対して、現在の課題に対し、個々のスキルに合わせた階層型研修が有効と考えています。スキルアセスメント結果に基づき、上級から初級までのレベル別カリキュラムを作成します。運営方法は、スキル階層でグループ分けする方法と、同一グループ内で階層分けする方法があり、採用人数やコストにより選択します。この運営方法のメリットは、スキルに応じたカリキュラム作成によるコスト削減と、適切な難易度設定による学習効果の向上です。

階層別研修のスキルアセスメントは、入社前、研修期間中、研修終了後の3つのタイミングで行われます。入社前のアセスメントは新入社員のレベル把握と研修カリキュラムのカスタマイズに、研修期間中のアセスメントは学習と習熟度のチェックに、研修終了後のアセスメントは研修全体の効果測定と配属先の検討に活用されます。

問題構成は各フェーズの目的に合わせて変え、入社前は実装形式の問題を、研修期間中は単元別のレベルチェックと総合的な理解度確認を、研修終了後は同じ難易度の類題を出すことが推奨されます。また、自分自身の弱点を見極め、それに対する復習計画を作ることが効果的とされています。

本日はお忙しいところご聴講いただきまして、誠にありがとうございました。

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  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

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