2023.09.29

DX人材育成の新戦略:未経験者を自立自走のエキスパートへと導く6つの研修事例

■Speaker 情報

株式会社ギブリー
研修事業統括
森 康真

北海道大学工学部情報工学科卒業、同大学院情報科学研究科修士課程修了。SAPジャパン株式会社にて人事コンサルタント、株式会社野村総合研究所にて、アプリケーションエンジニアを経験。株式会社ワークスアプリケーションズでは採用担当として数々のプロジェクトに関わり、特にエンジニア採用リーダーとして先進的な採用手法を確立する。2019年3月より株式会社ギブリーに参画。これまでのエンジニア/人事/コンサル経験を生かし、カスタマーサクセスチームマネージャーおよび研修講師として業務に当たる。

■イベント概要

2020年は予期せず訪れたコロナ禍により、オンライン研修が急速に普及しました。そして2021年のオンライン研修2年目の今、多くの企業が新たな研修運営スタイルをゼロベースで構築しています。オンラインとオフラインのメリット・デメリットを組み合わせた新時代の研修運営スタイルが確立しつつあります。しかし、新入社員の自立自走マインドをどう形成するかという課題が浮き彫りになってきました。本セミナーでは、その解決策として『教えない研修』の実践事例をご紹介します。新入社員のマインド形成や行動習慣定着を重視される皆様にとって、一助となる情報を共有します。

■VUCA時代に求められるDX人材は「ハイスペック」

現代はVUCA時代と言われ、求められるスキルが変化しています。変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が増し、ビジネスを進めるためにはそれに対応する必要があります。

例えば、以前はIT業界では経営企画や事業部がシステムを作るよう依頼する形が多かったですが、最近では技術を理解しないと新しいビジネスが生み出せないという状況になっています。Ubereatsのようなサービスも、技術を理解して初めて新しいビジネスが生まれるという流れがあります。

ビジネス部門とエンジニアリング部門のスキルを融合させないと、求められる成果物を出せない時代になっています。このような背景から、DX人材のニーズが増していると考えています。

私が大学でコンピューターサイエンスを学んだ経験を基に、経産省のマップを使ってレベル1から3までのスキルレベルをマッピングしてみました。

レベル1は大学1、2年生で学ぶ基本的なITリテラシー、レベル2は大学3年生から大学院2年生で学ぶテクニカルスキルや業務知識、そしてレベル3は国を変える可能性を持つイノベーションを起こすトップ人材のレベルです。これらの人材は大抵、博士号を持っていて、高度なテクニカルスキルと実務経験を持っています。

しかし、これらのレベルを達成するには大学の年数で表すと約9年と実務経験が必要で、しかも人材育成には時間がかかることがわかると思います。博士まで行くと9年かかりますから、すごい時間かかります。

しかも、実務経験が必要になってくるというところがあって、育成には時間かかるっていうのは、これを見ていただくと体感いただけるんじゃないかなと思います。 では、どのようにこのような人材を組織の中に増やしていこうということですね。どれか1つの方法だけでこれを実現するのは難しいです。 

■即戦力人材確保は「レッドオーシャン」

新入社員、新卒で、例えばテクニカルスキルトップの人を採っていこうとなると、今は結構レッドオーシャン化してます。例えば、コンピューターサイエンス系の人材は、年間で大体2万人ほどが大学などから排出されています。

その中でも、真面目に勉強してきた人や、天才的な人材がいます。例えば、大学時代から世界的なオープンソースコミュニティに貢献している人や、海外の賞を受賞したりハッカソンで受賞したりしている人もいます。

しかし、年収600万以上のオファーが基準になってしまっています。このようなハイスペックな新卒採用は競争が激しく、また、このレベルのオファーを出せる企業は、新卒にも大胆に投資できるほどの戦略的な人事制度を持っている会社が多いので、この方法で採用を進めるのは結構難しいかなと思います。

■DX人材を「低コスト・大量」に確保できる方法

ビジネススキルを持つ社員にテクニカルスキルを教えることは大きなコストがかかり、業務を一時停止して数ヶ月間勉強させる必要があります。また、業務と並行してスキルを学ぶのは時間がかかり、従業員のモチベーションを上げるのも難しいです。さらに、テクニカルスキルとビジネススキルを両方持つ人材を採用するのも難しく、市場にはあまり出てこないです。

そこで、私たちは新卒人材の育成にフォーカスしています。これには数年かかりますが、基本的に人員数確保できるのと、ロイヤリティ高い社員を獲得できるというのがあります。やはり、各企業ごとにミッション・ビジョンをしっかりしてますので、そこをしっかりと腹落ちした人材を大量に抱え込むっていうことにおいては、新卒というところから育て上げてくというのは、時間はかかります。しかし、安全かつ、規模の面でおいても結構有効な方法かなと思います。

次に、この新卒人材をどのようにDX人材に育成するのかという部分に関してお話をしていきたいなと思ってます。

■フロー状態へ導く「教えない研修」の仕掛け

新入社員研修の目的は、自立と実装の意義を見つけ、学習と習慣化を通じてマインドを形成すること。ITスキルはもちろん必要ですが、それ以上に重要なのは自ら調べ、考え、アウトプットするマインドを形成することです。

私たちは「教えない研修」を提唱していて、インプットは20%、アウトプットは80%の割合で行います。インプットでは詳細な技術を教えるよりも、思考方法やマインドを作る方法を伝え、技術については概念理解をします。アウトプットでは個人ワークやグループワークを通じて、自ら考え行動する力を育てます。この研修スタイルは、研修期間中にスキルとマインドを身につけ、研修後も長持ちする効果が期待できます。

また、研修設計にはチクセントミハイさんのフロー理論を取り入れ、スキルに応じた適切な難易度設定が重要です。これにより、研修生の成長意欲と成長速度が高まります。フロー体験に入るための重要なポイントは、目標設定、適切な難易度、没頭できる環境、直接的なフィードバックの4つです。これらを満たすことで、「教えない研修」の成功確率が高まります。

事例に関しては、フロー状態に突入するためにどんな仕掛けが必要なのかというところにフォーカスをして、お話をしていきたいと思います。

■研修生の「自ら学ぶことへのモチベーション」を生み出す6つの仕掛け


■仕掛け1「1on1のコーチングの重要性」

はじめに、「1on1のコーチングの重要性」について話します。研修は自己成長のためのもので、これを理解することが大切です。一般的な研修はカリキュラムに従って進行しますが、私は個々のニーズに合わせた1on1のコーチングが必要だと考えています。これが成功につながると思います。

現代の学生は自己啓発に熱心で、自分の学びの目的を理解することが重要です。そのためには、目標設定とそれに基づく学習計画の作成が必要で、これを1on1のコーチングを通じて行うことが有効です。特に、エンジニア経験のある人事担当者はこの点で活躍できます。

また、成長のためのテーマを設定するには、IT業界の歴史や業務、業界の理解、自社の理解、キャリア理解が必要です。これらを理解することで、自分が何を成し遂げたいのか、どのようなスキルやマインドを身につけるべきかを考えることができます。

そして、研修をどのように過ごし、配属先でどのように過ごすかを考えることができます。これは新人にとっては大変なので、経験者がサポートすることが重要です。これにより、学ぶことの目的を明確にし、自発的な動機付けを形成することができます。

■仕掛け2「スキルレベルに合わせたクラス編成の方法」

次は、「スキルレベルに合わせたクラス編成の方法」です。チクセントミハイ氏のフロー理論に基づくと、適切な難易度を設定することが非常に重要です。また、自己学習や演習の難易度を適切に設定するためには、レベル分けも重要です。

現在、ITスキルは研修生によって大きく異なる傾向があります。昔はどこの学部出身かで大体のスキルを把握できましたが、最近は文学部出身でも高いテクニカルスキルを持っている人が多いです。そのような状況の中で、スキルチェックをしっかり行い、研修の運営や途中でスキルに基づいて切り替えることがフロー状態を作る上で重要です。

特に最近はオンライン研修が一般的になってきたため、柔軟な運営が可能になりました。以前は物理的な制約で一つの部屋に20人までしか入れなかったのに対して、オンラインでは制約がなくなりました。私たちが提供している研修では、講師をレベルごとに分けています。初級の中でも超初級の人たちをサポートするクラスや演習に重点を置いた初級クラスなど、レベルに応じて講師を配置しています。

また、研修生は自由にクラスを入れ替えたり、特定の先生の授業を受けたりすることもできます。質問についても、オンラインメンターが中央集権的に回答することで、品質を保ちながら全体に展開することができます。

このように、オンライン時代になったことで、アダプティブラーニングがより簡単に実現できるようになりました。これにより、研修設計を柔軟に行うことができます。このように、教えない検証を運営する上でのレベル設計は非常に重要です。

■仕掛け3「ジグソー法」

討論や自己体験、他人への教示などを通じて学習を深める方法で、学習定着に非常に効果的な方法です。

具体的には、まず研修生が一つの専門分野を学び、その専門家グループを3つ作ります。それぞれのテーマを学んだ専門家が集まり、自分が学んだことを共有し、その知識を結集して課題を解決します。この方法は、短期間で効果が出やすく、学び合いや押し合いの行動習慣をつけるのに有効です。

また、オンラインツールを活用することで、運営も容易になります。この方法を用いた結果、未経験者の大半が6週間で基本情報の合格レベルを達成するなど、学習効果が高いことが確認されています。

■仕掛け4「ライトニングトークの導入」

次は、エンジニアに人気の「ライトニングトークの導入」です。これは、様々なテーマについて5分間でプレゼンテーションを行うもので、新入社員でも挑戦可能です。難易度の高いテーマにも挑戦し、その中でレベル分けを行うと面白いです。最初のレベルでは情報収集を行い、次のレベルではその情報を使って社会や自身の会社がどう変わるかを考えます。

このように難易度を徐々に上げていくことをおすすめします。未経験者でも、プレゼンテーションの構成や情報検索の方法、ロジカルシンキングを学べば挑戦できます。そして、自分で調査して発表することが自信につながります。

例えば、「サプライチェーンマネジメント」について調査し、理解できたという経験は、自身の学びになります。また、1日に3人が発表すれば、1ヶ月で60のテーマを学ぶことができます。これにより、知識がなかった人でも1ヶ月後には60のトピックスを知ることができます。この方法で、スキルアセスメントのスコアが大幅に上がることが確認されています。自分で学び、自分でアウトプットする習慣が身につくので、非常におすすめの方法です。

■仕掛け5「ライトニングトークの導入」

次に、「ビジネス職とエンジニア職の合同グループワーク」について説明します。ビジネススキルとテクニカルスキルを短期間で身につけるのは時間がかかるという話をしてきました。

企業ではビジネス職とエンジニア職を別々に採用し、別々に研修するケースもありますが、おすすめは全員で同じ研修を行うことです。これにより、全員が共通のITスキルを持つ状態ができ、組織全体としてDXスキルを持つ状態が形成されます。

また、エンジニア職とビジネス職が共通のカリキュラムで学び、一部は職種ごとに分かれるカリキュラムを組み、一緒のグループで成果物を作ることが有効です。これにより、相互理解が進み、バックグラウンドが違う人たち同士の理解が深まります。

この状態を作るためには、ポジティブな感情を作ることが重要です。また、最初の段階ではオフサイトでチームビルディングを行い、その後はハイブリッドないしリモートワークに移行することがおすすめです。

■仕掛け6「自己学習の環境を整えること」

新入社員研修の最後のポイントは、「自己学習の環境を整えること」です。新入社員のスキルセットは人それぞれで、配属先によって求められるスキルも異なります。そのため、全員に合った統一のカリキュラムを提供するのは難しいです。

そこで、共通として必要なスキルを新入社員研修で教え、それ以外のスキルは自己学習で身につけるような環境を提供することが重要です。そのためには、各配属先で必要なスキルを学べる学習プラットフォームを提供し、学習計画を立てることが大切です。

また、学習定着度を上げるためには、復習日を設けることも効果的です。さらに、セルフラーニングの際には、即時的なフィードバックが必要で、インプットした内容を小さくアウトプットすることや、適時習熟度テストを行うことが必要です。

■まとめ

現代のビジネス環境はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれ、特にIT業界ではビジネスとエンジニアリングのスキル融合が求められています。

しかし、高度なスキルを持つ人材の育成や採用は時間とコストがかかり、競争も激しいため困難です。そこで、新卒人材の育成に注力し、「教えない研修」を提唱しています。これは、自立自走マインドを形成し、研修生の成長意欲と成長速度を高めるものです。

また、学習意欲を引き出す6つの方法を紹介しました。

1つ目は、1on1のコーチングを通じて自己成長の目標を明確にし、自発的な動機付けを形成すること。2つ目は、スキルレベルに合わせたクラス編成を行い、適切な難易度で学習を進めること。

3つ目は、アクティブラーニングの一つであるジグソー法を用いて学習定着を図ること。4つ目は、5分間のプレゼンテーションであるライトニングトークを導入し、自分で調査して発表することで自信をつけること。5つ目は、ビジネス職とエンジニア職の合同グループワークを行い、相互理解を深めること。

最後に、自己学習の環境を整え、必要なスキルを自己学習で身につけられるようにすることです。これらの方法を通じて、研修生の学習意欲を引き出し、効果的な学習を促進します。

本日はお忙しいところご聴講いただきまして、誠にありがとうございました。
  • Writer
  • AgileHR magazine編集部
  • エンジニアと人事が共に手を取り合ってHRを考える文化を作りたい。その為のきっかけやヒントとなる発信し続けて新しい価値を創出すべく、日々コンテンツづくりに邁進している。

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